
「補聴器の調整はなぜ必要?」
「調整はどこでだれに依頼するべき?」
補聴器は装用してすぐに求めている聞こえの状態になるわけではありません。調整(フィッティング)を定期的に行うことで、要望通りの聞こえに近づけることができます。とくに補聴器の購入や買い換えの直後は調整を繰り返す必要があります。
本記事では、補聴器の調整が重要な3つの理由をはじめとして、以下について解説します。
- 調整内容について
- 調整の6ステップ
- 調整に関する3つの疑問
理想の聞こえに近づけるためにも、調整の重要性や実施する頻度などを知っておくことは大切です。本記事を補聴器の調整の理解を深めるために役立ててください。
補聴器の調整(フィッティング)が重要な3つの理由
補聴器において調整が重要な3つの理由は以下の通りです。
- 難聴の程度や状態は人それぞれ異なるため
- ライフスタイルや使用目的に沿った調整が必要であるため
- 補聴器は聞こえに慣れる期間が必要であるため
それぞれの詳細を解説します。
1.難聴の程度や状態は人それぞれ異なるため
聴力レベルは、軽度、中等度、高度、重度と難聴の程度によって分類されています。
また、難聴には以下のように種類があります。
難聴の種類 | 特徴 |
---|---|
伝音難聴 | 外耳や中耳の損傷、炎症によって起きる。何らかの耳の病気が原因となっている場合が多い。 |
感音難聴 | 内耳や聴神経、脳の中枢などの障害によって起きる。年齢の進行や大きな音の聴きすぎなどが原因。「小さな音が聞き取りにくい」「大きな音が響く」などの特徴がある。 |
混合性難聴 | 伝音難聴と感音難聴の両方の症状が現れる。 |
他にも「高い音が聞こえづらい」「低い音が聞こえづらい」などの人による症状の違いもあります。以上のように聞こえの状況は、難聴の種類や症状によって人それぞれ異なるため個々に適切な調整が必要です。
また、聴力レベルやオージオグラム(聴力検査の結果どの程度音が聞こえるかを示すグラフ)が同じでも、年齢や使用環境によって、音の感じ方はさまざまです。 だからこそご本人に合った細かな調整が重要です。
2.ライフスタイルや使用目的に沿った調整が必要であるため
補聴器は、ライフスタイルや使用目的に沿った聞こえのニーズに合わせて調整する必要があります。
例えば以下の通りです。
- 自宅で家族とゆっくりと過ごしたい方
- 会議や打ち合わせなどで複数の人と話す機会が多い方
要望通りの聞こえに近づけるためにも、販売店スタッフと綿密に相談をして調整を行う必要があります。また、補聴器のメンテナンスも重要です。音の調整とともにメンテナンス方法を覚えることでトラブルを防ぐことにつながります。
3.補聴器は聞こえに慣れる期間が必要であるため
補聴器は装用してすぐにその人が望むような聞こえが得られるわけではありません。難聴により「聞こえにくい状態」に慣れてしまっている脳が十分な音量に慣れる期間が必要です。
装用を始めた直後は、1〜2週間に1回の調整を最低でも3回は必要です。初回の約3カ月間は、とくにトラブルがなくても定期的に調整を行いましょう。
装用を始めた初期は、あらゆる音が少し大きく聞こえます。装用を習慣化して段階的に調整を続けると、脳が必要な音を拾えるようになり、理想とする聞こえに近づけられます。
補聴器の調整内容
近年の補聴器は、デジタル化によりその人の難聴の状態に合わせた調整が行えるようになっています。
主な調整内容は以下の通りです。
調整内容 | 詳細 |
---|---|
利得調整 | 難聴により聞こえにくくなった小さな音を増幅する。 |
最大出力制限 | 大きく聞こえすぎる音や不快な音の響き、雑音を抑える。 |
音質調整 | 会話をより明瞭に、聞き取りやすくするために音のバランスを整える。 |
他にも、特定の補聴器に搭載されているハウリング抑制機能などを活用すれば、より快適な聞こえに近づけられます。
補聴器の調整の6ステップ

補聴器の音を理想の聞こえに近づけるには、以下のような調整のための6ステップを踏むことが大切です。
- 補聴器相談医の診察を受ける
- 認定補聴器技能者にカウンセリングを受ける
- 聴力測定を行う
- 補聴器を選ぶ
- 初回の調整を行う
- 装用開始後、定期的に微調整を行う
それぞれの詳細を解説します。
1.補聴器相談医の診察を受ける
まずは補聴器相談医が在籍する耳鼻咽喉科を受診してください。現在の難聴の程度や耳の病気の有無を確認するためです。
補聴器相談医とは、難聴の診断から補聴器の必要性や有効性、補聴器の選択などを一貫してサポートできる補聴器の専門家です。専門の補聴器販売店の紹介や、販売店との連携した補聴器選びのサポートも行ってくれます。
補聴器販売店において、以下のようなことが適正に行われているかも判断してくれます。
- 適正な補聴器の選択ができているか
- 適正な調整を行えているか
- 適正な販売が行われているか
難聴や補聴器に関して疑問や不安がある場合は、受診の際に相談しましょう。なお、補聴器相談医を受診して「補聴器適合に関する診療情報提供書」を作成してもらえば、補聴器購入費の医療費控除を受けられます。必要な方は補聴器相談医に依頼してください。
2.認定補聴器技能者にカウンセリングを受ける
補聴器相談医を受診したあとは、補聴器販売店でカウンセリングや聴力測定や語音明瞭度(どの程度言葉を聞き取れるか)の測定、補聴器選定、調整を行います。これらの工程は、補聴器に関する高い技能をもつ認定補聴器技能者に依頼することを推奨します。
カウンセリングでは「どのような場面で聞こえに不自由を感じるか」「不自由を感じる度合いや程度はどれくらいか」「どんな場面・場所で補聴器を使ってみたいか」などを伝えてください。
例えば、以下のような内容です。
- 家族と会話中に聞き返すことが多くなった
- 誰かから呼ばれていても気づかないことが多くなった
- テレビやラジオの音量がうるさいと言われるようになった
- 会話が聞き取れず会議や打ち合わせに支障が出るようになった
できるだけ具体的に伝えることで、より要望に近い聞こえに調整することができます。なお、補聴器相談医に作成してもらった「補聴器適合に関する診療情報提供書」または紹介状を補聴器販売店に持参すると、打ち合わせがスムーズに進みやすくなります。
3.聴力測定を行う
補聴器販売店での聴力測定は、補聴器相談医から「補聴器適合に関する診療情報提供書」を作成してもらっている場合は基本的に不要です。しかし、不足情報があれば聴力測定を行うことがあります。補聴器販売店では、純音聴力(小さな音の聞き取り)と語音聴力(言葉の聞き取り)の測定を行います。
4.補聴器を選ぶ
本人の要望や聴力レベルに沿った補聴器を選択します。補聴器は大別すると以下のような種類に分けられます。
スタイル | 特徴 |
---|---|
耳かけ型 | 耳にかけて使用するタイプ。耳あなと比較してサイズが大きい傾向にあるため、操作性に優れている。 |
耳あな型 | 耳あなに収めて使用するタイプ。小型かつ軽量で目立ちにくいのが特徴。耳の形状や聴力レベルに合わせて作成するオーダーメイドタイプが一般的。 |
ポケット型 | 本体とイヤホンがコードでつながれているタイプ。ボリュームやスイッチが大きく操作性が良いのが特徴。 |
本人の要望や体質(アレルギーなど皮膚の敏感さ、汗のかきやすさ、耳垢の性質など)、手先の器用さなどを考慮して選択します。「家族が補聴器の管理や操作にどの程度協力できるか」も、補聴器選びにおいて重要なポイントです。
補聴器の選び方の詳細を知りたい方は「補聴器の選び方|主な5つの基準と試聴時に確認すべきポイントを解説」を参考にしてください。
5.初回の調整を行う
補聴器の選択を終えたら初回の調整を行います。本人の難聴の程度に合わせて、小さい音は聞こえやすいように、大きな音はうるさくなりすぎないように調整します。
初回は「少しうるさい」程度の聞こえになりますが、決して大きな音に調整しているわけではありません。「少しうるさい」と感じてしまうのは、以下のように脳が関係しています。
- 脳は難聴により音の刺激の少ない状態に慣れている
- この状態に対して補聴器を用いると、音の刺激が急激に増えて脳が「うるさい」と感じてしまう
補聴器の装用習慣を続けると脳が音に慣れてきます。初回は不快に感じてしまうかもしれませんが、調整を繰り返し慣らしていけば必要な音を拾えるようになります。
6.装用開始後、定期的に微調整を行う
脳が順応するまでの期間は、定期的に微調整が必要です。前述した通り、装用を始めてから約3カ月の間は、1〜2週間に1回の調整を最低でも3回は必要です。定期的に調整を行い、その都度、効果の確認の測定を受けることで、目標とする聞こえの状態に近づけられます。
補聴器相談医の受診後の工程は、前述した通り認定補聴器技能者に依頼することを推奨します。認定補聴器技能者が在籍している補聴器販売店はこちらから検索可能です。
補聴器の調整に関する3つの疑問

ここでは、以下の補聴器の調整に関する3つの疑問を解説します。
- 補聴器の調整は自分でできる?
- 補聴器の調整はどこでするべき?
- 補聴器の調整の費用や時間は?
それぞれの詳細を解説します。
1.補聴器の調整は自分でできる?
補聴器の調整は専門的な知識や技術が必要です。そのため、基本的に調整は認定補聴器技能者などの販売店スタッフに依頼するものです。
スマートフォンのアプリで開放されている調整機能は、自分で調整を実施しても問題がない範囲で設定してあります。補聴器の詳細な調整は、専門知識を有する販売店スタッフが実施します。
2.補聴器の調整はどこでするべき?
補聴器の調整は、以下のような場所で行うことを推奨します。
調整する場所 | 詳細 |
---|---|
認定補聴器専門店 | 認定補聴器技能者が在籍しており、補聴器の選定や調整、聴力の測定などの必要な設備等が、公益財団法人テクノエイド協会の認定基準をクリアしている補聴器販売店。 |
認定補聴器技能者が在籍する補聴器販売店 | 補聴器に関する高い知識や技能を有していることを証明する認定補聴器技能者の資格を有する販売店スタッフが在籍している補聴器販売店。 |
以上の補聴器販売店であれば、専門知識や技術にもとづいた調整を実施してくれます。
3.補聴器の調整の費用や時間は?
補聴器の調整費用は、基本的に補聴器を購入した販売店であれば無料です。他の補聴器販売店に依頼する場合は1回あたり数千円〜1万円程度の調整料がかかります。事前に補聴器を購入する、または調整を依頼する補聴器販売店のホームページなどを確認しておきましょう。
調整にかかる時間の目安は、初回は一般的に1時間から1時間30分ほどです。2回目以降は30分ほどと見ておきましょう。
補聴器の調整を適切に行い理想の聞こえを手に入れよう

補聴器は、装用してすぐに求めている聞こえの状態になるわけではありません。理想の聞こえに近づけるためには、認定補聴器技能者の資格をもつ販売店スタッフに調整してもらうことを推奨します。
また、要望通りに調整してもらうために、カウンセリングの際に「どのような場面で聞こえを不便に感じるか」「どんな場面・場所で補聴器を使ってみたいか」などを詳細に伝えるようにしてください。認定補聴器技能者は認定補聴器専門店にも在籍しています。お近くの補聴器販売店をお探しの方は、こちらから検索してください。
参考
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記事投稿者
吉沢仁(よしざわひとし)
看護専門学校を卒業後、病棟看護師として従事する。2021年からWebライターの活動を開始。医療・健康分野を専門にしており、生活習慣病や精神疾患、呼吸器疾患、循環器疾患、小児疾患などさまざまな分野で執筆経験がある。医療系の総執筆数は200本以上。現在は医療系メディアでSEOライティングを中心に対応中。