「補聴器を使い始めたけど思ったほど聞こえない」 「思うほど聞こえない原因を知りたい」 「聞こえを良くするにはどのような対策を行えば良い?」 補聴器を使っても思うほどの聞こえない原因は、不適切な調整や難聴レベルに合っていない補聴器の選択など、さまざまなことが考えられます。 本記事では、補聴器の装用を始めた方に向けて以下について解説します。
- 思うほど聞こえない8つの原因
- 思うほど聞こえないときに実施すべき4つの対策
思うほど聞こえない原因を理解することは、期待している聞こえに近づけるために必要なことです。補聴器の聞こえを改善するために本記事を役立ててください。
補聴器を使っても思うほど聞こえない8つの原因
補聴器を使っても思うほど聞こえない場合は、以下の8つの原因が考えられます。
- 調整が適切ではない
- 難聴レベルに合った補聴器を使用していない
- 補聴器から聞こえる音に慣れていない
- 補聴器を一日中装用せず、外している
- 両耳難聴であるが片耳しか補聴器を装用していない
- フィット感が欠けている
- 補聴器に汚れが詰まっている
- 期待と実際の聞こえにギャップがある
それぞれの詳細を解説します。
1.調整が適切ではない
補聴器を使っても思うほど聞こえない原因で多いのが不適切な調整です。調整が不適切である場合は、以下のような聞こえの状態になっている場合があります。
- 会話が聞きとりづらい
- 音が大きすぎる
- 不快な雑音や音の響きが聞こえる
上記のような聞こえの状態になっている方は、調整が不適切な可能性があります。補聴器は、購入後装用すればすぐに期待している聞こえを得られるわけではありません。
装用者の難聴レベルや使用目的、生活環境に合わせて、細かく音質・音量を調整する必要があります。装用開始直後は、1〜2週間に1回のペースを最低でも3回以上の調整が必要です。適切な間隔で調整を行えていない方は、補聴器販売店で調整を行ってください。
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2.難聴レベルに合った補聴器を使用していない
そもそも、難聴レベルに合った補聴器を選択できていないと、思うほど聞こえないです。難聴レベルには、軽度、中等度、高度、重度の4段階があり、それぞれに適した補聴器の種類または十分な出力の製品を選択する必要があります。
例えば、高度・重度難聴の方が軽度難聴向けの補聴器を使用しても、出力が足りずに十分な音量を得ることはできないでしょう。補聴器相談医が在籍する耳鼻咽喉科で、正確な聴力検査を受けて、本人の難聴レベルに適した補聴器を選ぶことが重要です。
3.補聴器から聞こえる音に慣れていない
補聴器により期待している聞こえを得るには、以下のように脳が補聴器の音に慣れるまでの期間が必要です。
- 補聴器の装用前は脳が聞こえにくい状態に慣れている
- 装用を始めることであらゆる音が少し大きく聞こえる
- 装用を継続することで必要な音を拾えるようになっていく
装用を始めた初期段階においては、補聴器の音がうるさく聞こえてしまい、会話が聞き取りづらい場合があります。補聴器からの聞こえに慣れるには、数週間から3カ月は必要です。
4.補聴器を一日中装用せず、外している
補聴器の聞こえに慣れるためには、1日のうち一定の時間装用する必要があります。1日の装用時間が長いほど、補聴器に対する満足度が高いとの報告もあります。
1日に何時間装用すべきかは明確にされてはいませんが、できるだけ長いほうが良いとされています。補聴器所有者430人を対象にした調査によると、1日の平均補聴器装用時間は6.5時間ほどです。
とはいえ、補聴器の装用を始めた初期段階は、音が大きく聞こえて不快感を覚えやすいです。不快感により補聴器を装用しなくなってはいけないため、「30分程度から始めて1日に2時間以上は装用しない」というように、慣れるまでは短時間で始めることが一般的とされています。
補聴器販売店の販売店スタッフと相談しながら、無理なく装用習慣を定着させていくことが重要です。
出典:一般社団法人 日本補聴器工業会 JapanTrak 2022 調査報告 p65.両耳難聴であるが片耳しか補聴器を装用していない
両耳難聴である場合に片耳しか補聴器を装用しないと、聞こえが良くない場合があります。片耳しか補聴器を装用しないと、両耳装用と比較して以下のような聞き取りづらさがあるためです。
- 音の方向や位置がわかりにくい
- 片耳しか音が入らないため自然な音を聞き取りづらい
- 騒音の中で音が聞き取りづらい
聞こえの効果を高めるために両耳装用を推奨することが多いです。両耳装用は片耳と比較して、補聴器に対する満足度が高いとの報告もあります。
出典:一般社団法人 日本補聴器工業会 JapanTrak 2022 調査報告 p36.フィット感が欠けている
補聴器のイヤーモールドや既成の耳栓が耳あなにフィットしていないと、十分な聞こえが得られない可能性があります。フィット感が欠けているとハウリング(ピーピー音)の原因にもなるため、イヤーモールド等は装用者の耳あなに合ったものを使用してください。
補聴器を装用した際に、以下に該当する場合はフィットしていない可能性があります。
- 耳が痛い
- 耳から外れやすい
- 耳に違和感を覚える
イヤーモールドの作成や調整は、補聴器販売店で行えるため販売店スタッフに相談してください。また、そもそも補聴器の装用方法が適切ではない場合も考えられます。販売店スタッフに、補聴器を適切に装用できているかを確認しても良いでしょう。
7.補聴器に汚れが詰まっている
補聴器のワックスフィルター(スピーカーを保護しているフィルター)やイヤーモールドに、耳垢やごみが詰まることで聞こえが悪くなっている可能性があります。汚れが詰まっていたら、補聴器用のブラシで取り除いてみてください。
なお、補聴器の手入れの方法は、補聴器の種類によって異なります。補聴器販売店の販売スタッフに確認してください。補聴器の内部の汚れに関しては、自分で掃除することは難しいです。3カ月に1度は補聴器販売店で掃除をしてもらってください。分解して行う掃除は、2年に一度行ってもらいましょう。
8.期待と実際の聞こえにギャップがある
補聴器を装用すれば、以前のような聞こえに戻ると過度な期待をしている可能性も考えられます。補聴器はあくまでも会話の聞き取りを改善する医療機器であり、以前のような聞こえに戻せるわけではないことを念頭に置かなければなりません。
期待している聞こえに近づけるためには、難聴レベルや使用目的に沿った補聴器の選択、定期的な調整、装用習慣の定着化などを実施する必要があります。補聴器の聞こえに関することでご相談がある方は、こちらからお問い合わせしてください。
補聴器を使っても思うほど聞こえないときに実施すべき4つの対策
補聴器を使っても思うほど聞こえないときに実施すべき対策は以下の4つが挙げられます
- 専門家に再調整をしてもらう
- 耳鼻咽喉科を受診する
- 装用を習慣にする
- 定期的にメンテナンスを行う
それぞれの詳細を解説します。
1.専門家に再調整をしてもらう
補聴器を使い始めて思うほど聞こえないときは、再調整をしてもらうことが重要です。調整は、補聴器に関する高い知識と技術をもつ認定補聴器技能者に行ってもらうことを推奨します。
認定補聴器技能者とは、公益財団法人テクノエイド協会が実施する4年間の養成課程を修了して得られる資格のことです。認定補聴器技能者であれば、専門知識や技術に基づき本人の難聴レベルや使用目的に沿った調整を実施してくれます。
2.耳鼻咽喉科を受診する
補聴器を適切に使用しているにも関わらず思うほど聞こえない場合は、難聴の進行もしくは何らかの耳の病気を引き起こしている恐れがあります。補聴器相談医に相談してみても良いでしょう。
なお、補聴器よりも先に補聴器相談医を受診して、診断と治療を受けることが基本的な考え方です。補聴器を購入する前に難聴の原因や程度、耳の病気の有無、補聴器の必要性を診断してもらう必要があるためです。補聴器相談医の診察を受けずに補聴器を購入した方は、優先的に受診してください。
3.装用を習慣にする
前述したとおり補聴器は、装用を始めてすぐに期待している聞こえを得られるわけではありません。装用を習慣化して適宜調整も行う必要があります。
装用時間と調整間隔の目安は以下の通りです。
| 装用時間 | ・慣れないうちは1日30分程度から始めて1日2時間以内とする ・慣れてきたらできるだけ長く装用する |
|---|---|
| 調整間隔 | ・装用開始直後は1〜2週間に1回のペースで最低でも3回以上調整を行う ・装用開始後3カ月間は問題がなくても調整を繰り返す |
上記はあくまで一例です。販売店スタッフと相談しながら無理なく装用を習慣化できるように進めてください。
4.定期的にメンテナンスを行う
補聴器の聞こえを保つには、掃除などの定期的なメンテナンスが必要です。以下のような基本的なメンテナンスを行えば、汚れの詰まりによる聞こえの低下をある程度防ぐことができます。
- 補聴器本体やイヤーモールドを毎日乾いた柔らかい布で拭く
- ワックスフィルターは1カ月に1回または目詰まりした場合に交換する
補聴器から異常な音が聞こえたらワックスフィルターを交換してみても良いでしょう。補聴器の種類ごとのメンテナンス方法は「補聴器のお手入れ方法」を参考にしてください。
補聴器を使っても思うほど聞こえない場合は専門家に相談しよう

補聴器を使っても思うほど聞こえない原因は、不適切な調整や難聴レベルに合っていない補聴器の選択などの他に、「補聴器の音に慣れていない」「装用時間が短い」などが挙げられます。
適切な調整や難聴レベルに合った補聴器の選択はとくに重要です。適切な調整を実施してもらうためには、認定補聴器技能者が在籍する補聴器販売店や認定補聴器専門店の利用を推奨します。
「自分にあった補聴器がわからない」「いきなり補聴器を購入するのは不安」という方は、補聴器の試聴やレンタル制度を利用する選択肢があります。レンタル制度を利用できるかは補聴器販売店によって異なるため、事前に確認しておきましょう。補聴器を購入する前に診察や検査を受けていない方は、補聴器相談医を受診してください。
参考
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器を使って快聴ライフ!使い始めるタイミングから選び方まで
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器のやさしい解説
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 補聴器を活用するために
日本聴覚医学会 補聴器の初期調整時の装用時間と音に対する慣れの検討
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記事投稿者
吉沢仁(よしざわひとし)
看護専門学校を卒業後、病棟看護師として従事する。2021年からWebライターの活動を開始。医療・健康分野を専門にしており、生活習慣病や精神疾患、呼吸器疾患、循環器疾患、小児疾患などさまざまな分野で執筆経験がある。医療系の総執筆数は200本以上。現在は医療系メディアでSEOライティングを中心に対応中。
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記事監修者
若山 貴久子 先生
1914年から100年以上の実績「若山医院 眼科耳鼻咽喉科」院長。■詳しいプロフィールを見る■