ヘッドホン、あるいはライブやコンサートなど、音楽を楽しむ方法はさまざまありますが、補聴器を装用しながら音楽を聞くと、音の歪みの問題が気になるかもしれません。また古い世代の補聴器は、音楽に必要な周波数の音をノイズとして消してしまうことがあるのだとか…今回は補聴器ユーザーであるロジャーさんのノウハウにふれながら、補聴器で音楽を楽しむ方法についてお伝えします。
友人のロジャー・ドレイパーは、重度の難聴がありますが毎日何時間もクラシック音楽を楽しんでいます。彼はそのことを記事にすることを快く承諾してくれました。(※編注:ロジャー・ドレイパーは元記事の筆者テマ・アレンフィールドの友人)
家に一人でいる時は高音質の音を増幅してくれるヘッドフォンで聞きますが、誰かと一緒にコンサートに行ったり、家で一緒にオペラを鑑賞する時は、補聴器の「音楽用プログラム」を使っています。
多くの人々が、補聴器だけで音楽をもっと楽しむことができます。例えば、聴力が衰え始めると、クラッシックを聞いているとき、楽曲に新しい楽器の音が入ってきても、オーボエなのかクラリネットなのか区別できないことに気付くかもしれません。オペラであれば、歌詞が聞き取りにくいかもしれません。補聴器を装用することで、聞き過ごしてしまっていた音が聞こえるかもしれません。
特に重度の難聴の場合は、音の強弱の幅が広い音楽を聞くことはとても難しいものです。ロジャーにとっては、ヘッドフォンを使っている時であっても、小さい音は聞きにくいままです。大きい音は大きくなりすぎてしまいます。彼は補聴器をしていても、彼の聞く音楽は非常に大きな音になってしまっているため、「アパートから出て行ってもらいます」と言われたこともあるそいうです。米ノースウェル・ヘルス・レノックス・ヒル社の聴覚専門家(オーディオロジスト)、ルース・ライスマン氏によると、音楽愛好家は、ヘッドホンの音量を非常に大きく上げてしまうので、耳により大きなダメージを受けることがあると指摘しています。
人の声の大きさは30dB~85dBの幅があります。音楽の場合はその倍の幅があり約100dBにもなる場合もあります。さらに音楽は、音声よりも幅の広い周波数を含んでいます。例えば、ピアノは女性の声より周波数の範囲が40%広いといわれています。
これまでは、補聴器でこのような広い範囲の音を歪みなく扱うことができませんでした。しかし、近年では音楽の音の処理能力が格段に向上しています。他の聴覚機器について聴覚専門家(オーディオロジスト)と話をしても音楽の音の処理能力はかつてと比べて、とても大きな違いがあるそうです。
古い補聴器でおきるよくある話
「ほとんどの補聴器メーカーは、補聴器で通常の音楽の入力音を歪めてしまう「問題」 を解決しました。」とトロントの聴覚専門家(オーディオロジスト)マーシャル・チェイスンは、長年にわたってミュージシャンに特化して業務をおこなってきましたが、静かな場所で会話に使うのと同じ設定で音楽を聴くことをお勧めしますと語ってくれました。
古い型の補聴器では、低い周波数成分が失われる場合があります。そして加齢性難聴の場合は、高い周波数が聞こえなくなる傾向があります。(補聴器の助けがなければ、お孫さんと話ができないですよね?これが理由です)。そのため、会話用に調整された補聴器は、 たとえば、「魚(SAKANA)」 と 「高菜(TAKANA)」 を区別するために重要な高い周波数の音を聞きやすくします。しかし音楽では、低い周波数がより重要になることが多いのです。
盛況なパーティーやレストランなどの人が多く、騒がしい中での会話を理解するのに、とても苦労することがあります。 補聴器の中には背景雑音を軽減する機能があるタイプも今はあります。しかし、古い型の補聴器では、ノイズと弦楽器の音とを間違えて動作してしまう可能性があるのです。
さらに、補聴器は装用中に起こる高周波のハウリング音を抑制できるようになっていますが、これまでは、お好きなモーツァルトのオルガンやフルートのメロディーなど、音楽の音を誤って抑圧してしまうことがありました。
しかし、最新の補聴器にはこうした問題は少なくなっています。自分の補聴器で音楽プレーヤーやラジオ、テレビの音楽を聴いているとき、音が歪んでいると感じたら、それらの音量を下げてみるのもいいかもしれないですね、とチェイスンは言います。補聴器に音量調節機能があれば、必要に応じて音量を上げることも可能です。軽度から中等度の難聴の場合は、単純に補聴器を外すことでも対応できます。
ミュージシャンのかたへ:聴覚専門家(ドクターやオーディオロジスト)に問題を相談してください
マンハッタンにあるノースウェル・ヘルス・レノックス・ヒルの聴覚専門家(オーディオロジスト)、ルース・レイマンによると、ミュージシャンはベートーベンが難聴になったときにしたのと同じように、頭の中で音楽そのものを再現しているため、難聴になっていても、それを見逃してしまうことがあるそうです。そんなミュージシャンのように頭の中での音楽を再現する事は、「第六感のようなものだ」と彼女は言っています。
楽器を演奏したり歌ったりしている場合、補聴器で自分の声を聴いたり楽器の音を聞いたりしたときに、聞こえ方が変わって聞こえることがあります。これは「オクルージョン効果」 と呼ばれる効果です。RITEタイプなどを使いオープンフィッティングをする必要があるかもしれませんし、低い周波の利得を下げると楽になるかもしれません。とリズマンは言います。
チェイスンは以下のような聴覚補助装置(ALD)がよい助けになるので、聴覚専門家にアドバイスを求めてください、と言っています。
- ヘッドフォン:増幅可能なヘッドフォン(アンプリファイドヘッドホン)は、一般的なヘッドフォンよりも大きな音を出すことができます。ヘッドフォン用 「イコライザー」 を使用すると、低域、中域、および高域を自分好みに合わせて音質調整できます。ノイズキャンセラー付きのヘッドホンを補聴器の上に装着し音楽を聴くと、音を大きくする必要がなくなります。
- ループ:磁気ループシステムは、携帯電話を使用しているときや、映画館、教会、コンサートホール、劇場内にいるときに補聴器の「T」 (テレコイル) で受信できるワイヤレス信号を提供します。
- リモートマイク:マイクを音源に近づけることで、室内の生の音を直接拾って聴くことができます。
- ストリーミング機器:これらの小型機器は、他のオーディオ機器からの音をワイヤレスで補聴器に送ります。補聴器のストリーミングプログラムを有効にするよう、聴覚専門家(オーディオロジスト)に依頼してください。友人のロジャは、テレビからの音を補聴器に直接送信するTVアダプターを使って、英語の台本でミュージカルやオペラを聴いています。
「音楽は、以前ヘッドフォンで聞いていたときほどには良い音ではありませんが、ことばを理解することができます。これは、補聴器を着けていなければ、不可能なことなんです。」と彼は言っています。
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■英語版記事はこちらから
米国「Healthy Hearing」2020年8月10日の記事「Optimize your hearing aids for music」
米国版記事寄稿:Temma Ehrenfeld:Temma Ehrenfeld は 心理学分野と健康医療分野で表彰されたことのあるジャーナリストです。彼女は、米国の大手全国紙、雑誌やウェブサイトに寄稿しています。
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート
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記事監修者
田中 智英巳
デマント・ジャパン株式会社 アドバンスト・オーディオロジー・センター・センター長、ハワイ大学マノア校 Adjunct assistant professor, 静岡県立総合病院 客員研究員、ASHA認定オーディオロジスト、ハワイ州オーディオロジスト。■詳しいプロフィールを見る■