2020.09.29公開

音の雑学:音程が変わって聞こえるドップラー効果

消防車

以前「絶対音感」というものを取り上げたことがありますが、幼い頃から楽器演奏などをしていた人は感覚として正しい音程が身についており、どんな音でも音階として聞き分けることができるという能力です。

現在では音程は機械で測定することが可能なのでどんな音も機械的に把握できますが、それが難しかった時代に絶対音感が化学実験に使われたことがあります。

近づいてくる音と遠ざかる音は音程が違って聞こえるというものがあります。パトカーや消防自動車のサイレンの音は、近づいてくる時とすれ違って去って行く時では違った音に聞こえますよね。

この現象が馬に乗っている時や、今よりゆっくり走る蒸気機関車しか無かった時代に「音が違って聞こえる気がするけれど錯覚ではないか」と議論になったことがあります。

そこで、1842年にこの現象を証明しようと科学者のクリスチャン・ドップラーが絶対音感を持つ人間を使って科学的に検証しています。

まずトランペット奏者を列車に乗せて、Gの音(ドレミの音階ではソの音)を吹き続けさせます。それを絶対音感を持った音楽家が列車が地上に待機して、通り過ぎていく時にどのように音が変化して聞こえるかを楽譜に書き起こしたのです。

その結果、近づいてくる時は実際の音より半音だけ高いG#の音に聞こえ、通り過ぎる一瞬は正しいG、そして遠ざかっていく時は半音下がったG♭に聞こえるという事が判明したのです。

音の正体はすべて細かく振動する波形で、振動が細かくなるほど音は高く聞こえます。

近づいてくるときはその波が圧縮されて耳に届くので高い音、そして遠ざかっていく時は波が広がって聞こえるので低い音になるのです。

この報告は学会で話題となり、実験者の名から「ドップラー効果」と呼ばれるようになっています。

このクリスチャン・ドップラーは天文学などにも関わっており、その後、音が変化するのなら光も変化するに違いないと考えます。そこで「夜空に輝く恒星に色の違いがあるのは、その光の速度の違いによるものだ」と仮定しています。

確かに光も音と同じように波長で出来ているので、同じような効果があると考えるのは不思議なことではありません。ドップラーは光の場合、色が変化するのではないかと考えたのですが、残念ながらドップラーはそれを実証する前に亡くなってしまいます。

その後「恒星の色の違いは表面温度の違い」ということが判明しており、その仮説は間違いだったことが解っています。しかしこの時のドップラーの仮説が別の形で正しかったことが証明されています。

アンドロメダ星雲

それが「地球から遠ざかっている恒星から発せられた光は波長が長くなるので微妙に赤味がかって見える"赤方偏移"という現象が確認されたのです。逆に近づく恒星からの光は青く見えるそうです。

恒星そのものの光ではなく、発せられる光が変化する現象で、これを「光のドップラー効果」と言います。

「なんか音が違って聞こえる」という何気ない疑問がキッカケとなって、それが元に宇宙という無限の世界の成り立ちの解明にまで展開されていったのです。


寄稿者:杉村 喜光(知泉)