昨今、芸能人が突発性難聴を発症したというニュースを耳にする機会も多く、突発性難聴は一般にも広く知られるようになっています。患者数は増加傾向にありますが、いまだに原因不明で確立された治療法はありません。臨床データから分析が行われ、診断基準や治療法は年々変わりつつある病気です。突発性難聴とはどのような病気であるかを知って、症状が現れたときにいち早く気づいて行動に移せるようにしておきましょう。
突発性難聴とは
突発性難聴は、突然、片耳の聴力が低下する病気です。うまく音を感じとりにくい感音難聴の中でも原因不明のものを言い、耳鳴りやめまいの症状がみられることもあります。難聴の程度は全く聞こえなくなる場合から日常会話に支障がない程度まで、さまざまです。まれに、両耳に聴力低下が起こることもあります。
厚生労働省特定疾患急性高度難聴調査研究班の報告による2012年の突発性難聴の年間罹患率、10万人あたり60.9人(愛知県、愛媛県、岩手県)を1)2012年の日本の人口1.276億人に当てはめて患者数を概算すると77,708人となります。2001年の突発性難聴の患者数は35,000人(全国)と報告されているので、患者数は10年程度で倍近くに増加していることが伺えます。
子どもから高齢者まで幅広い年齢層に見られる病気ですが、30~60歳代に多く、とくに50歳代でよくみられるという報告があります。
突発性難聴は、症状の問診と聴力検査、画像診断などによって診断されます。治療効果は個人によって差がありますが、治療開始が遅くなるにつれて治療効果が下がるとされているため、早期治療がカギを握る病気です。
突発性難聴の症状
突発性難聴の症状は、突然、耳が聞こえにくくなる難聴の症状がみられます。難聴の程度は個人によってさまざまで、耳が詰まった感じを訴える人もいれば、全く聞こえなくなる人もいます。左右どちらかの片耳の聴力低下がほとんどですが、まれに両耳に症状が現れることもあります。
難聴の症状以外に、耳鳴り、めまい、吐き気などもみられます。これらの症状は難聴の症状がみられる時のみならず、その前後で感じることもあります。
突発性難聴と同じように、難聴や耳鳴り、めまいなどがみられる病気にメニエール病があります。突発性難聴とメニエール病の異なる点は、症状の変動の有無です。突発性難聴では、難聴や耳鳴りなどの症状が良くなったり悪くなったりと変動することはありません。しかし、メニエール病では、これらの症状が変動したり、繰り返したりすることがあります。
突発性難聴の原因
突発性難聴の原因は不明です。内耳の循環障害、ウイルス感染、免疫異常などが関係していると考えられていますが、内耳でどのような障害が起こって突発性難聴になるのかもわかっていません。
最近では、NF-κB(nuclear factor kappa B)というタンパク質が活性化することで、一酸化窒素合成酵素(NOS)や炎症物質のサイトカインなどが誘導され、内耳障害を引き起こす可能性があるという細胞ストレス仮説が提唱されました3)。
突発性難聴の引き金となるのは、ストレス、疲れ、睡眠不足などが言われています。
突発性難聴と思われる症状が現れたら
突発性難聴を疑うような、急に聞こえなくなる症状を感じたら早期に耳鼻咽喉科を受診することが大切です。難聴の程度が重い場合、めまいを伴う場合、高齢の場合、2週間以上経過してから治療を開始した場合には、症状が改善しにくいという報告があります。できるだけ早くに的確な診断を受けて、適切な治療を開始する必要があります。
突発性難聴の診断は、問診、聴力検査、画像検査(CT・MRI)などによって行われ、「突然の発症」「感音難聴」「原因不明」のすべてを満たすがことが条件です。治療法としてエビデンスが確立した治療法は無いものの、副腎皮質ステロイドやビタミンB12、循環改善薬が一般に使用されます。治療を行っても治るのは3分の1で、残りの3分の1は部分的な回復にとどまり、3分の1は治療をしても症状の変化が得られません。
症状が現れてから早期に治療を開始すれば経過が良好であることがわかっているため、いつもと違う耳の症状があれば、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診して、治療を開始することが重要です。また、突発性難聴の要因として挙げられているストレスや疲れを溜め込まないようにして、しっかりと睡眠をとり、発症のリスクを低減することも大切です。
-
記事投稿者
丹野 愛
フリーライター。医療・介護系のサイトコンテンツやコラムなどを執筆。作業療法士。福祉住環境コーディネーター2級。認知症ライフパートナー2級。
-
記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■