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マスクと補聴器。悩ましい組み合わせ

  • 公開日:2020.05.12
難聴 補聴器 ヒント
マスクしている女性

新型コロナウイルスの蔓延を防ぐために、公共の場所でマスクの着用が求められています。しかし難聴の方々にとっては、これは健聴な人ほどたやすいことではありません。マスクの着用は、補聴器をつけていたり、聞こえづらさをかかえる人にとっては追加的な課題をもたらします。

  • 話している相手がマスクをしている場合、相手の話を理解することが難しくなります。
  • 補聴器(特に耳にかけるタイプの補聴器)を装用していると、マスクを耳にかけるループ(紐)の部分が補聴器を引っ張るなど他の問題を引き起こす可能性があります。

「補聴器も一緒に外れることなく、マスクを外す方法がまだわかりません」と、実際の補聴器ユーザーであるマーサ・マランさん(米国ミネソタ州セントポール在住、この記事の筆者の義母にあたる)は語ります。彼女は普段から耳かけ型補聴器に加えて眼鏡も装用しています。マランさんは、今やマスクの耳の紐との折り合いを考える必要があり 「これは大変です。」と述べます。

補聴器をマスクとともに装用するには

耳かけ型の補聴器[BTE、RITE(ライト)またはRIC(リック)などと呼ばれるタイプ]をお使いの場合、伸縮性の高い紐のついた標準的なフェイスマスクを装着しようとすると、問題が起こる可能性もあります。マスクの紐が、補聴器本体と耳に入れるイヤピース(ドームやモールドなど)を接続するチューブの部分やスピーカーを引っ張ってしまうことがあります。また、マスクを取り外そうとした際に、誤って補聴器を一緒に引っかけてしまい落としてしまうようなこともあります。補聴器ユーザーはどうするべきでしょうか?

補聴器には、非常に多くの種類があるため、もし問題があれば、まずお買い上げの補聴器販売店へご相談ください。他のユーザーから得られた良いアイデアがあるかもしれません。実際に、下記を含むさまざまな対応策が届いています。

  • マスクの紐は伸縮性の高いタイプではなく、柔らかい布性の紐などを使用したマスクを着用して耳へかかる圧を緩和する
  • 耳にかけるのではなく、左右のマスクの紐をマスク用フック、マスク紐用フック、マスク用エクステンダーなどと呼ばれる補助具で留める(様々なアイデア製品が出始めています、また医療従事者はマスクを密着させる必要があるため、多く現場ではこれらの補助器具が取り入れられています)自作でマスク紐用のフックを作る方もいるようです。
  • ヘッドバンドなどを装用し、左右にボタンを取り付け、マスクをこのボタンにかけるなどといったアイデアも生まれています。

「世界的に公的機関などでは、マスクではなく透明なフェイスシールドなどを使用するよう求められてきており、(難聴に悩む方などにとって)解決策のひとつとなるかもしれません。しかしながらまだまだこのような解決策が採用されている場所は限定的です。」と英国マンチェスター大学の音響学教授であるケビン・マンロー博士(Kevin Munro PhD, Ewing Professor of Audiology, University of Manchester)は述べています*1。

マスクをした状態で、難聴を持つ方に話をするとき

医師と患者

医療、福祉の現場において:

難聴を持つ人々はマスクを装着している話者の話を聞くときにも困難に直面します。医療現場では、ストレスや緊張が高まりがちなこともあり、医療従事者と患者との間でコミュニケーションがスムーズに運ばないことは、どちらの側にとってもフラストレーションがたまる場面につながる可能性もあります。

「マスクの存在は難聴を持つ患者の方にとって2つの明らかな問題を引き起こします:患者さんは、口の動きからの言葉の手がかりを得ることができず、医療従事者の声は「減衰」し、くぐもって聞こえます。」

2020年4月の米国Hearing Review誌に掲載された『医療用マスクが会話の聞き取りをどのように低下させるか(原文名:How Do Medical Masks Degrade Speech Reception?)』*2で著者は上記のように指摘しています。(この文章における、「減衰」とは、マスクが人の声の音量を下げることを意味します。)

現在多くの病院に見られる騒がしい状況と、病院関係者の口元が見えないことから視覚的な手がかりの欠如が重なることは、院内の患者のうち特に難聴を抱えた多くの方は会話を通じた「理解が非常に難しい」可能性があると本研究は指摘しています。

この問題の一助として、本研究の著者らは医療現場で難聴を持つ患者の方とのより良い会話のためのチェックリストを提供しています:

医療現場において:

  • 部屋の騒音を減らし、患者の注意を引きます
  • 患者がどのような方法でのコミュニケーションを好むかを尋ねましょう
  • 早口にならないようにそしてはっきりと話します
  • 叫ぶほどの大きな声で話さないでください(これは難聴の人にとっては耳の痛みを伴うことがあります)
  • 補聴器ユーザーの場合、ユーザーが補聴器を装用していることを確認します
  • 理解が十分でない場合は、言葉の言い換えを行ってください
  • 患者さんと話すときは順番に話します
  • 歩きながら話をするのはやめましょう
  • もし入手可能な場合、透明なプラスチックのマスクをかけていただくことにより、患者さんは唇の読み取りが容易になります。
  • (もし可能であれば)ポータブル型の補聴援助システムの使用を検討してください

「(難聴の方と話すとき)話者は抑揚を強めたり、大きな声で話したりすることで、伝わりにくい部分を補おうとしますが、より効果的な方法は、はっきりと明確な発音で話していただくことです。」と米国アリゾナ大学の言語聴覚科学の准教授であるニコール・マローネ博士(Nicole Marrone, PhD, associate professor in Speech, Language, and Hearing Sciences at the University of Arizona.)は説明しています。

公共の場において:もしあなたに難聴があるなら

コミュニケーション

買い物などで公共の場所にいるときは、これらのヒントがいつも効果的とは限りません。ただし、例えばあなたと配偶者、また同行した家族が両方ともマスクを着用している場合は、配偶者や家族はあなたに対して、いつもよりゆっくりとはっきりと話しかける必要があることを、認識しているかどうかを確認してください。そして、知らない人と話すときは、必要であれば、難聴があることを伝え、よく聞こえないので、はっきりと話してもらう必要があることを知らせましょう。

もし難聴がある人と話すなら

難聴を持つ人に話しかけようとしている場合は、「相手に伝わらない、または伝わりにくい言葉を何度も何度も繰り返すのではなく、想像力を使って自分の言葉を伝えてください」
米国ヘルシーヒアリングの代表であり、聴覚ケアの専門家でもあるマンディ・ムラ-スはこのように推奨しています。「ボディランゲージやアイコンタクトを併用する、会話の速度を下げることでより明確にする、といった、伝える力を大切にしてください。」

■参考文献

*1 Face masks are a challenge for people with hearing difficulties*

*2 “How do medical masks degrade speech reception? “Patient Care | May 2020 Hearing Review


本記事はHearinglife.comにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的に、日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhearinglife.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、heatlhyhearing.comが指定する執筆者または提供者に帰属します。

■英語版記事はこちらから

米国「Healthy Hearing」2020年5月4日の記事「A tricky combination: Face masks, hearing loss and hearing aids」(US Healthy Hearing 編集 Joy Victory寄稿)

  • 記事投稿者

    ヘルシーヒアリング編集局

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