3月3日は、国連の世界野生生物の日。ふだんは人間の聞こえ(非常に繊細でかつ複雑なものです)についてお伝えしていますが、動物たちの聞こえに関してもいくつもの奥深い事実があります。私たち人間の仲間でもある動物がいかに聴覚を使って世界とつながりをもっているかについて見ていきましょう。
アニマルキングダム~人も動物も虫たちもみんなの聞こえ~ライオンからイエネコまでネコ科の動物たちの聞こえ
ネコ科の動物たちは、ライオンからわたしたちの近くにいる家猫たちまで身体の大きさはさまざまですが、いずれのネコ科の動物たちもとても優れた聴覚をもっています。毎年3月3日は、国連の世界野生生物の日とされています。(同日3月3日は界保健機関(WHO)によって定められた国際耳の日でもあります)本年2018年のテーマは、ライオン、トラ、ヒョウ、ジャガー、チーター、スノーレオパード、プーマ、ウンピョウなどの大型のネコ科動物たちです。これらの優美な野生動物は、その鋭い聴覚を主に、獲物を捕らえる狩りのために使用します。ネコ科のうち最も飼いならされた家猫についても極めて優れた聴覚を持っています。
彼らは非常に広い周波数範囲を検出することができ、人間や犬よりも高い音を聞くことができます。人間の耳は3本の筋肉と3本の微細な骨で構成されていますが、猫の耳は約36の筋肉によってコントロールされており、これによって猫はパラボラアンテナのように耳を180度回転させることができます。
犬たちの聞こえ、聞こえのパートナーとして活躍する犬たちも!
現在では、愛犬家によって快適な生活を惜しみなく与えられている犬が大半を占めており、犬たちは野生動物とは見なされないかもしれません。しかし、飼い犬たちの聴覚は彼らの飼い主と比べてはるかに優れています。米国の犬の専門誌Bark誌によると、犬が聞くことができる周波数帯は、人間のそれよりはるかに広いものです。だからこそ、犬はほとんどのクオーツの目覚まし時計の水晶振動子の出す超高音のパルス音といったものや、壁の中のシロアリの出す振動といった音でさえ聞くことができるのです。犬の耳は左右互いに独立して動くことができます。どうぞ犬たちの耳に細心の注意を払ってみてください、犬たちの耳の位置から彼らのいまの気分についての手がかりを得ることができます。
優れた聴覚を活用し、難聴者の聞こえをサポートする聴導犬として活躍する犬たちもいます。聴導犬は、目覚まし時計、呼び鈴、キッチンタイマー、火災警報、強盗警報、電話といった家庭内やその他の音を人に知らせるように訓練されています。犬たちは腕や足を軽く押すといった身体的な接触によって聴覚障害を持つパートナーにこれらの音が鳴ったことを知らせ、その後その音源へと誘導します。
鳥たちの聞こえ、フクロウの耳はずれて生えている?
野鳥は危険に対する警告を察知するため、もしくはワシなど猛禽類の鳥たちは、新たな獲物をすばらしい精度で見つけ出すためにその鋭い聴覚を使います。例えば、フクロウは耳が非対称に位置していることで知られています、片方の耳がこう片方の耳よりわずかに上側に位置しています。この左右のずれは獲物の音を正確に特定するのに役立ちます。フクロウは夜行性動物ですが、その聴覚を、暗闇の中で首尾よく狩りをするのに役立つ鋭い視覚と連動して働かせることができるのです。飛行中、フクロウの左耳は下からの音を、右耳は上からの音を拾います。
蛾とクモと、クモは案外事情通かもしれない・・・
小さな仲間たちの聞こえにも目を向けてみましょう。何世紀にもわたって捕食者から逃れ,その聴力が人類および動物界において最高のものに進化した、昆虫の中で、蛾について注目してみましょう。一般にはあまりその存在を好まれない蛾たちですが、科学者たちは、いくつかの蛾の種では、その聴覚は人間の150倍も敏感であると言います。最も高い周波数(300キロヘルツ)を聞くことができる彼らの能力を以ってすれば天敵から襲われる前に、例えば蛾の主な捕食者であるコウモリから無事に逃げ出すことができるのです。
クモ形類動物に属するクモについてもご紹介しましょう。クモはあなたをはっきりと見ることができないということはご存知でした?クモはその種類によって目のないものから8個の目を持つクモもいますが、クモたちの目は焦点を合わせるのはむずかしいとのこと。でも実はあなたの声は聞くことができることを知ったら、驚きではありませんか?クモが聞き耳を立てているかもしれないなどと考えたらむしろちょっとした不安を覚えるかもしれません。
米国コーネル大学の研究者による偶発的ともいえる発見によって、クモには音がどのように聞こえているのか、そして音にどのように反応するかについても詳しく分かりました。研究の結果、クモは低周波音に最も敏感であり、前脚の小さな毛を使うことで、5 m離れたところから研究者がおくった拍手を「聞く」ことができました。
爬虫類、トカゲもまたこっそりと聞いている?
苦手だとおっしゃる方もいるかもしれませんが、爬虫類についても見ていきます。爬虫類の聴覚系は、同種間で比較的類似していますが、爬虫類がすべて同様な器官で音を聞くわけではありません。例えば、ヘビは外耳や鼓膜といった器官を持っていません。その代わりに、地上と空中で検出した振動に反応してあごの骨が動きます。この動きは蛇たちの内耳に伝達され(内耳はあります!)、脳に送られてその音が持つ意味を解釈しています。
一方で同じ爬虫類でもあるトカゲは、肌の表面のすぐ下に鼓膜を伴う目のように見える開口部があります。トカゲは人間と同じようには音を聞くことはできませんが、ヘビに比べれば、より良く音を聞くことができます。日本の京都大学理学研究科の動物行動学研究室がマダガスカルで行った検証によるとトカゲは耳の力を仲間たちのコミュニケーションにではなく「盗聴」に使っていることが検証されました。トカゲの天敵の多くは空からやってくる鳥たちです。トカゲの盗聴とは、鳥たちが天敵の接近を仲間たちに告げる警戒音に耳をそばだてることで、空からの敵の襲来にちゃっかりと、でもしっかりと身を守るためとのこと。
海洋生物たちの聞こえ、人は海からやってきた?
人間の耳が魚のエラから発達したことをご存じでしたか。科学者はそう信じています。今日、人間の聴覚はもちろん魚の聴覚とは大きく異なっています。魚類の聴覚についてみていくと頭の中の耳の部分に加えて、魚の身体には体の側面を横切って水流や水圧の変化を感じたり、水中の音を拾ったりするのに役立つ側線と呼ばれる器官があります。
ここでは哺乳類であるイルカの聞こえについてご紹介します。イルカは海中で音をとらえるためには、反響定位(エコロケーション)を用いています、これはクジラも同様です。反響定位とは音の反響を受信することで、自分の位置を判断するもの。イルカは高周波の鳴き声や頭部の少し出っ張った部分から(メロン体と呼ばれる器官)から放射することによって、進行方向のサウンドマップを描くことができます。音は物体の表面にあたって跳ね返りイルカの下顎に戻ります。イルカの歯もまた聴覚に使用されており、向かってくる音を受信するのに役立つアンテナのように機能します。暗い海の中で食べ物を見つけ危険を避けるためにイルカたちは同じく反射で海の中の様子を知る「ソナー」と呼ばれる方法を使います。イルカは2種類の音、すなわち高音の笛のような音と鳴き声またはクリック音を発生させます。鳴き声は、仲間たちとのコミュニケーションに、そしてクリック音はソナーとして機能します。
科学者たちは、イルカの聴力範囲は20Hzから150kHzで、人間よりも7倍優れていると述べています。
人間の聞こえそして私たちが持つメリットとは?
聴覚は動物界のすべての生き物にとって非常に重要な感覚であり私たち人間も例外ではありません。私たち人間は、自然界の仲間たちほどの優れた聴覚は持ち合わせていないかもしれませんが、私たち人間には聞こえの面では明らかにメリットがあります。耳鼻科医をはじめ、聴覚ケアの専門家そしてテクノロジーの進歩のおかげで、私たちは聴覚検査を受け、また必要な聴覚ケアを通じて、生涯にわたって聴力を保ち続けることができます。
どうぞ現在の聞こえを大切にするためにもテレビや音楽プレイヤーなどの音量を下げ、耳栓などを活用することで大きな騒音から耳を保護しましょう。年に1回聴力検査を受けることで、聞こえの状態を知ることができます。聞こえについて不安なことがあれば迷わず耳鼻科へご相談ください、またもし聞こえの低下によって補聴器といった聞こえのサポートが必要な場合でも、補聴器専門店選びについてこちらからご相談いただくことも可能です。
■参考
Gardian;Spiders don't have ears - but they can still hear you coming
Sceiencing:How Do Dolphins Hear?
京都大学理学研究科動物行動学研究室(リンク切れ)
■本記事について
本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.comまたhealthyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「Healthy Hearing」2018年3月1日の記事「Hearing in the animal kingdom」(DebbyChan寄稿)(リンク切れ)-
記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
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