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補聴器に人工知能(AI)が搭載されるようになりました。具体的にどのようなことが可能になるのでしょうか?

  • 公開日:2021.04.07
補聴器
AI

人工知能 (AI)と言うと、ハリウッド映画に登場する万能のロボットのようなSFの世界を想像してしまうかもしれません。しかし、ここでの話はそういうことではありません。補聴器に関して言えば、AIは製品の機能を向上させてくれるものです。

例えば、AIは最も聞き取りが難しい状況の一つとされる、混雑した騒がしい場所(レストランやカフェを想像してください)での会話をサポートしてくれます。補聴器装用者の方ならお分かりのように、音を大きくすることが必ずしも解決策にはならないからです。

数か月、そして数年に渡り、研究者たちはこの技術を利用して補聴器を改良する方法を模索してきました。本稿では、補聴器がAIをどのように活用しているのか、また、あなた自身や周囲の大切な人にとって、AI技術を備えた補聴器が適しているかを判断する上での有用な情報についてご紹介します。

 

コンピューター

簡単に言えば、人工知能は、機械が人間の知能を模倣する能力として定義されます。人工知能は、「知的な」 判断を要する一連のタスクを、既定の規則に基づいて実行します。

「人工知能の定義は非常に幅広く、機械学習、ニューラルネットワーク、ディープラーニングなどはすべてAIの範疇に入ります。」と、テキサス大学ダラス校エリック・ジョンソン工学・コンピュータサイエンス学部の教授であるイッサ・M・S・パナヒ博士は述べています。

AIの一種である機械学習によって、機械はアルゴリズム(一連の規則)に従い膨大な量のデータを分類し、判断を下し予測を立てています。

もう一段階レベルが進んだものがディープニューラルネットワーク(DNN) になります。この種のAIが目指すところは、特定の状況でどのように振舞うかをはっきりとプログラムされていなくても、脳の神経的機能を模倣することによってヒトの脳が反応するのと同じように機能できることです。

この技術は、私たちの日常生活にも既に浸透しています。メールで受信したメッセージがカテゴリー(重要、広告など)に分類されるのも、動画配信サービスで「次のおススメ」が呈示されるのも、車の自動駐車サービスも、この技術が応用されているのです。ありふれてはいるけれども重要なディープラーニングの例としては、天気予報やクレジットカードの詐欺防止機能などがあります。ディープラーニングによるこうした技術のおかげで、私たちの生活は近年益々恩恵を受けています。

補聴器はAIをいかに活用するか

「AIの補聴器への搭載は、実際には何年も前から着手されてはいるものの、その実用化には時間がかかっています。」と、オクラホマ州 タルサにあるヒアリング・ソリューション・センターのオーナーでオーディオロジストのスコット・ヤング氏は述べています。

以前の補聴器は比較的単純でしたが、ワイドダイナミックレンジ・コンプレッション (WDRC) と呼ばれる技術が導入されると、補聴器は入力音に基づいて判断を下すようになったとヤング氏は言います。

「ここ数年でAIはさらに進化し、周囲の環境で何が起こっているのかを識別し、その変化に沿って応答します。」とヤング氏は続けます。DNNを使用すると、原則として、補聴器が健聴者(訳注:聴覚障害がない方) の脳における音声処理を模倣できるようになるのです。

「補聴器が効果的に機能するためには、装用者個々の聞こえに対するニーズ以外にも、あらゆる種類の背景雑音に適応する必要があります」とパナヒ博士 は述べています。「このような複雑で、非線形(ノンリニア)の、様々な要素によって変化する問題に対処するには、AI、機械学習、そしてニューラルネットワークは、大変優れた技術なのです。」とパナヒ博士は続けます。

研究によりわかったこと

楽しむ男性

聞こえの向上に関しては、研究者たちは今日に至るまでAI技術を使用することで、多くを達成してきました。

例えば、オハイオ州立大学の知覚・ニュ-ロダイナミクス研究所(PNL)  の研究者らは、他の雑音(冷蔵庫の音のように大きさが一定の騒音や背景会話雑音など)から人が聞きたいと思う音声を区別できるDNNを開発したと、同大学コンピューターサイエンス・工学科の教授であるダリエン・ワン氏はIEEE Spectrum(訳注:電気・情報工学分野の国際標準化機関IEEEの刊行する学術誌)で報告しています。「この技術を使用しない場合、背景会話雑音が存在する中での難聴者のことばの理解度は29%でしたが、DNNを使用することで84%にまで向上しました。」とワン氏は記載しています。

また、テキサス大学ダラス校では、パナヒ 博士と共同主任研究者のリンダ・シボドー博士の両名が、AIを使って音声の方向を認識するスマートフォンアプリを開発しました。このアプリの実現には、より良い聞こえを得るために、雑音の特定と抑制を可能にする大規模なサウンドライブラリを内蔵するモデルの構築が必要となります。スマートフォンをテーブルや車のGPSスタンドに置くことで「補聴器やイヤホンに明瞭な音声が届けられ、聞くことができるようになります」とパナヒ博士は述べています。

「従来の数学的アプローチでは容易に解決できなかった信号処理の様々な課題を、AIでは克服できるということに重要な意義があります。」とパナヒ博士は続けますが、

シボドー博士曰く、このアプリはまだ一般には公開されていないそうです。

ディープニューラルネットワーク搭載補聴器

DNN搭載補聴器

近年、大手の補聴器メーカーは、AI技術を各社の最上位機種(プレミアムクラス)に取り入れています。例えば、ワイデックス モーメントという補聴器は、AIと機械学習を利用して、装用者の典型的な聴取環境に基づいたプログラムを作成してます。

そして今年  2月、オーティコンはディープニューラルネットワークを搭載した業界初の補聴器である、オーティコン モアを発表しました。オーティコン モアは、現実世界の1200万もの音環境を学習済で、これによって補聴器装用者は音声や周囲の音をさらによく理解することができるようになっています。

賑やかな空港や病院の救急治療室のような煩雑な音環境では、オーティコン モアのニューラルネットに複雑な音が入ってきます。これは入力と呼ばれます。ディープニューラルネットワークは、まずこの入力情報をスキャンして、単純な音の構成素とパターンを抽出し、次にこれらの要素の組み合わせによって、状況を認識し、理解します。最後に、補聴器から出力される音の明瞭性を保ちつつ、装用者個々の難聴特性に合わせて音と音のバランスを理想的に整えるにはどのように、音同士のバランスを取れば良いのかを補聴器が判断し、それを実行します。

オーティコンのオーディオロジー部門バイスプレジデントであるドナルド・J・シュム博士は、新製品発表会で、ディープニューラルネットワークによる機能改善は、特に騒音下での会話理解に役立つことを説明しました。

「音声を含む環境中のあらゆる音は複雑な波形をしていますが、そうした独特のパターンや構造は、むしろディープラーニングの分析対象となるデータとしてはもってこいです。」と、シュム博士は述べています。「我々は、背景雑音の中にあっても音声を検知できる補聴器の開発を目指してきました。その目指してきたことが今まさに実現し、今後へと続く基礎を築いたのです。」

AIを使用した補聴器は必要?

「いろいろな補聴器が存在すると考えてください。」ヤング氏は言います。「補聴器の価格はさまざまですが、AI機能を付け足している低価格帯の製品は少ないと言えます。」

同氏は、患者によってはたくさんの機能を必要としない場合があることを指摘しています。たとえば、一人暮らしの方や、外出の機会がほとんどなく混雑した場所に行かない方にとっては、最上位機種が備える機能性にメリットを感じることは少ないのかもしれません。

しかし、外出が多くあちこち出かけられる方、特に複雑な音環境にいる方は、AIを搭載した補聴器の 機能によって、聞こえの体験はより豊かになります。

聞く努力の軽減

「何をもって“機能向上”とするかには様々な基準がありますが、記憶の想起はとても重要な指標のひとつです。」シュム  博士は言います。オーティコン モアのような補聴器が文字どおり記憶力を向上させるわけではなく、騒がしい状況の中で音を理解するために費やす時間を低減し、いわゆる“聞く努力”を軽減することが人工知能の役割なのです。

聞く努力が過多にならず本来通りであれば、人は会話やそこに伝わるニュアンスに、より集中できるようになります。

「そして脳は本来通り自然に機能するようになります。」とシュム博士は述べています。


■本記事について

本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。

■英語版記事はこちらから

米国「HealthyHearing」2021年1月25日の記事「Hearing aids now come with artificial intelligence. What does that mean?」(フリーライター Madeleine Burry寄稿)

  • 記事投稿者

    ヘルシーヒアリング編集局

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