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「インクルージョン」によって広がる難聴者の働き方改革

  • 公開日:2018.06.21
生活 難聴
Inclusive businesses put people with hearing loss to work

「インクルージョン」ということばが近年ビジネスの場面で話題に上ることが増えています。これに先立って一人ひとりの違いを認め合い様々な立場の人々に就業機会を増やしさまざまな人材を生かす、多様性と訳される「ダイバーシティ」という働き方に関する言葉も既に一定の市民権を得てきました。国籍、学歴、性別さらに個人的な特徴を持つ多様な人材が広くその実力をいかんなく発揮していくためには、ダイバーシティに加えて個々の経験や能力、そして考え方の違いを認めながら、個々の人材の特性を活かす必要があるとして「インクルージョン」の考え方が求められるようになってきました。

世界中では4億6,600万人以上の人々が難聴を抱えているとされ、世界保健機関(WHO)によると2050年までにその数は9億人に達すると推定されています。 WHOによると難聴を治療せずに放置することは、保健や教育支援にかかる費用、生産性の損失や社会的なコストの増大などを含み、世界規模で年間7,500億ドルの国際的費用につながると推定しています。発展の中途にある国々では、特に難聴をそのままにしている成人の失業率が高いことが報告されています。

インクルージョンを実践するインドの企業「ミラクル配送(Mirakle Couriers)」

inclusive business

多様性を尊重する職場は、従業員をはじめ人々を惹きつけてやみません。

多様性を尊重する職場は人々を惹きつける、それは起業家のダルヴァ=ラクラ氏(Dhruv Lakra)が母国インドムンバイを旅した際にバスの中で窓の外を不安げに見つめる少年との出会いから得た一つの事実です。運転手が告げる停留所のアナウンスが彼の耳に届いていないことにやっと気づいたラクラ氏は紙を取り出し、一方少年は鉛筆を取り出し、筆談によるコミュニケーションを通じて、彼は目的地に無事に着くことができ、ラクラ氏自身は難聴者が日常で抱えている葛藤を初めて実感することになりました。聴覚障害は周囲からは見て取ることがむずかしい問題でもあります。

インド耳科学会誌(Indian Journal of Otology)の論説によれば、インド人口の約6%(6,300万人以上)が何らかの形の難聴を抱えており、そのうち66%の人々が失業しているとされます。

この問題に応えて、ラクラ氏はインド国内の難聴の人々に向けた質の高い雇用の提供に重点をおく物流会社ミラクル配送を設立しました。ミラクル配送は低所得層のろうの人々の雇用の促進によって表彰を受けた企業としても知られています。創業から2年以内に同社は2か所の支店を構え、月に65,000個以上の出荷量と、70人以上の聴覚障害者の雇用を実現しました。2016年に同社は電子商取引の巨大企業アマゾン社の注目を集めることとなり、現在ではアマゾンに向けて独占的に配送業務を行っています。

インターネットメディア「クォーツ」のインド版のオンライン記事によると、37歳のラクラ氏は同メディアに対し「一般的に、労働力全体の1%が障害を持つ人々といわれていますが私たちはその真逆です。健聴者は私たちのスタッフのわずか数パーセントに過ぎません」と述べています。「アイデアとは聴覚障害者の雇用体系を根本的に変えるインクルージョンの概念に基づく組織を創り出せるかの模索にありました」

ところで、先進国とされる米国の例では・・・

米国では連邦法でもある「障害を持つアメリカ人法(通称ADA)」に基づき、障害のある人の差別は法律に反します。しかし多くの企業では聴覚障害者の雇用に二の足を踏んでいるとされます。また、とりたてた根拠はないものの難聴者が職場になじめるのか、また特別に費用がかかるかもしれないと雇用主は懸念しています。ニューヨークタイムズ誌に掲載された最近の調査によると、雇用主は何らかの障害のある人を雇う可能性は34%も低いことが報告されています。米国国内の難聴者の成功を使命とする非営利団体「ろう者のためのコミュニケーション・サービス」によれば、ろう者全体の約70%が失業状態にあると報告しています。

否定的な統計にもかかわらず、大小さまざまな進歩的な企業が「インクルージョン」を実現した職場の良い事例を提供しています。

Pepperbox Coffee:ペッパーボックスコーヒー

共にろうでもある共同経営者のニック=ブキャナン氏(Nick Buchanan)とマリオ=エッシグ氏(Mario Essig)は、彼らのビジネスのはじまりは両氏が夜空の星空を見上げた折に、流れ星を目撃したことに触発されたからと述べます。ろう者コミュニティの一員として、両氏はろう者と難聴者(HOH=hard of hearing)が共に直面している失業の危機を強く意識しており、ビジネスの場において彼らの才能を分かち合うことでこの障壁を取り除きたいと考えていました。

ペッパーボックスコーヒーは、一杯ずつ手作業で行うハンドクラフトコーヒーサービスとして2017年に米国テキサス州オースティンで営業を開始し、現在4人のバリスタ*(2人のろう者および2人の健聴者)を雇用しており、またテキサス聾唖学校からインターンを迎えています。

Austin, Tx PepperBoxCoffe_Inclusive businesses

ニック氏は、地元の企業とネットワークを構築しようとするとき、コミュニケーションが最大の課題だと話します。「しばしば私は紙と鉛筆に頼ってしまいますが、これは通常は暖かい関係をつくることにはつながりません」と彼は説明します。

「一般的に人々は私たちのビジネスを非常に励ましてくれますし、また助けようとしてくれますが、鉛筆によるコミュニケーションの本質として、長くて意味のある情報を得たり、多くの人たちを巻き込んだりといった可能性の代わりに短い答えを得て終わってしまいます」

困難へ挑戦する一方で、二人の共同経営者たちは現在、地元のイベントやビジネスにケータリングサービスを提供するなど、始まったばかりのビジネスを次の段階へと育てるべく取り組んでいます。ニック氏は、現在の道の角にあって窓口からコーヒーを受け取る店舗から、レンガ造りの建物中に店を構えることを目標にしていると述べています。現在のところ、彼らは目標に向かい一歩一歩進んでいるようです。

ニック氏曰く「会計帳簿を管理し、適切なタイミングで適切なバリスタを雇うこと、それが立ち上げ段階では非常に重要なことといえます」とのこと。「そうすれば、長期にわたり生き残るための見通しを立てることができます」

*バリスタ:コーヒーの専門スタッフ

Lyft:リフト

ここまでの例と比較して、米国サンフランシスコに拠点をおくオンデマンドの運輸送会社Lyftは、聴覚障害者と健聴者との間のギャップを埋める技術に依存しています。Lyft社は乗客が車での送迎が必要な時にアプリなどを通じて配車を依頼できるタクシーに似たサービスです。

「Lyftは、難聴そしてろうのお客様とドライバーの双方を力づけることに常に力を入れてきました」と同社のPR担当は述べています。「私たちは2017年4月から全米ろう者協会と提携して、弊社の予約用アプリを聴覚障害者や聞こえの問題を持つ方がより使いやすいように改良を行いました。このパートナーシップを通じて、またLyftをご利用いただくコミュニティからのフィードバックによって、『インクルージョン』のコミュニティをさらに支えるための新たなサービスを開発しました。」

Lyft-Amp-Empowering Deaf and HOH Communities

最新サービスの中には、Amp(アンプ)と呼ばれる小さな車載表示器が含まれます。Ampは、聴覚障害を持つドライバーを視覚的にサポートするために「NEW RIDE(新たなお客様です)」という言葉を点滅させ注意を促します。これに加えて乗客には彼らのドライバーがろう者または難聴者であることを携帯電話等のSMS(ショートメッセージ)を通じて通知します。Lyft社によると、この最新サービスは様難聴の当事者をはじめさまざまなコミュニティに熱狂的に受け入れられています。ドライバーそしてお客様のフィードバックを基に引き続き、さらなる乗車体験の向上にむけた取り組みを促進していきます」と述べています。同社PR担当は、「私たちはろう者や難聴者のドライバーの方々の勤勉さと会社への貢献に感謝しています」と語り「全米ろう者協会のような団体とのパートナーシップを通じて、私たちは聴覚障害者や難聴を持つドライバーを力づけ、ドライバーとお客様の双方によりスムーズな乗車経験を提供するよう努めていきます」と結んでいます。

ダイバーシティはビジネスにとって良い影響があります

inclusion business

会社の規模にかかわらず、多様な従業員の存在は社内に多くのメリットをもたらします。障害者雇用促進法といった法的要件を超えて難聴者を積極的に雇用し、彼らが生産的に活動できるよう支援を行う企業は仕事への貢献度の高い、優れたスキルをもった従業員を惹きつけることが分かっています。どのような観点からも、インクルージョンのアプローチはビジネスに継続的によい影響を与えているとみることができます。そして聞こえの問題に捕らわれず収入を得、企業経営に貢献できることは社会全体にとって良いことなのは言うまでもありません。

もし聞こえに不安があり、仕事や周囲とのコミュニケーションへの影響を感じている場合はためらうことなく必要なサポートを得ましょう。現在の聞こえの状態を理解するためにどうぞ耳鼻科での聴力テストを受診ください。難聴と分かった際も、補聴器の装用を含む適切な聴覚ケアによって多くの人々が職場で今までと変わらない活躍をされています。先進の補聴器はブルートゥース技術などを積極的に取り入れ、携帯電話やPCなどとの接続も可能です。技術の発展によって、補聴器自体が職場での聞こえの問題を強力に支える「インクルージョン」として貢献できるようになりました。ヘルシーヒアリングを通じお近くの補聴器専門店などについてもご相談いただけます。

 

■参照サイト

インドミラクル配送(Mirakle Couriers):英文サイト

米国ペッパーボックスコーヒー(PepperBoxCoffee):英文サイト

米国リフト(Lyft):英文サイト

■本記事について

本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhealthyhearing.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingが指定する執筆者または提供者に帰属します。

■英語版記事はこちらから

米国「Healthy Hearing」2018年4月12日の記事「Inclusive businesses put people with hearing loss to work」(DebbyChan寄稿)
  • 記事投稿者

    ヘルシーヒアリング編集局

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