「曇りや雨の日が続く梅雨の時期は、めまいや耳鳴りがつらい」こんなお悩みはありませんか?数か月にわたって気圧が安定しないこの時期、耳に影響が出てしまう人は少なくありません。最近では梅雨の時期だけでなく、台風の時も含めて 低気圧や寒暖差などによって体調不良を起こすことは「気象病」と呼ばれるようになり、注目されています。今回は、気象病の原因を解説するとともに、ご自身でできる対処法をご紹介します。
気象病と耳との関係
気圧の変化は、鼓膜の奥にある「内耳(ないじ)」に影響を及ぼし、自律神経のバランスの乱れにつながることで、耳に症状が現れることもあることがわかっています。
内耳は、内リンパと外リンパの組成の異なる2種類のリンパ液で満たされた器官です。気圧などの原因で内リンパが増えると「内リンパ水腫」という、内耳がむくんだ状態になります。内リンパ水腫が起こると、内耳の血流が悪化し、めまいや難聴、耳鳴りをきたすというメカニズムです。
また、血流の悪化には、自律神経のバランスの乱れが関わるともいわれています。
交感神経は血管を収縮させ、副交感神経は血管を拡張させる働きをします。気圧が下がると血管はわずかに拡張するため、交感神経をよけいに働かせて調整しなくてはなりません。
そのため、副交感神経へ切り替えるタイミングがずれてしまい、交感神経のバランスが崩れて、血流に影響するのです。
気圧変化による症状への対処法
ご自身でできる、気圧変化に伴う体調不良への簡単な対処法をご紹介します。
まずは気象病のチェックを
まずは気圧の下がる時期と体調不良の関連をチェックしてみましょう。
天気と体調をカレンダーなどにメモし、関連があるかみてみます。雨や台風の当日だけでなく、数日前から体調が優れないという方も多いです。1か月ほど続けてみると、関連性があるかないか見えてくるでしょう。
メニエール病や片頭痛も、気圧との関連があるとされています。
気圧のチェックと体調記録を一緒にできる「頭痛ーる」などの便利なアプリの活用もご検討ください。
耳のマッサージ・ツボ刺激
耳の血行をよくするために、耳を温めてみましょう。
濡らしたハンドタオルをレンジで加熱するなどして、ホットタオルを用意します。熱いと感じない程度に、ホットタオルを耳にあててください。熱すぎる場合は、あてたり離したりを繰り返します。寝る前などにおこなうと、リラックス効果も得られるのでおすすめです。
水分の代謝を促したり、血流を改善したりするようなツボ刺激が有効な場合もあります。
内関(ないかん)
手首の内側の、しわの部分から指3本分ひじに向かった箇所は「内関」と呼ばれるツボです。めまいや頭痛のセルフケアのツボとして知られています。
気持ちがよいと感じる程度の強さで、3〜5秒ほどゆっくりと刺激しましょう。
完骨(かんこつ)
耳のうしろ、髪の生え際あたりにある、骨の出っ張りの少し下の箇所は「完骨」というツボです。少しへこんでいるので、わかりやすいと思います。
血流を改善し、副交感神経をととのえるリラックスのためのツボです。親指を使ってゆっくりと、上に押し上げるようなイメージで刺激しましょう。
軽い運動
気圧変化によるめまいや耳鳴りは、自律神経のバランスが乱れたことが原因かもしれません。交感神経ばかりが強く働くようになった結果、つねに体が緊張状態になり、リラックスができなくなっているのです。
自律神経のバランスをととのえるには、運動も効果的。体を動かして適度に疲れさせることで、副交感神経への切り替えを促します。体を動かせばストレス解消になるほか、血行もよくなり、めまいや耳鳴りの改善に繋がります。
あまり激しい運動をする必要はありません。20〜30分かけて「少し息が上がる」程度の運動が適しています。少し早歩きの散歩、サイクリング、スイミング、ヨガ、ピラティスなどの有酸素運動を取り入れてみましょう。
入浴にもひと工夫
自律神経のバランスをととのえるために、入浴方法を見直してみましょう。
副交感神経を活発にして体をリラックスさせるためには、あまり高温のお湯での入浴は向きません。40℃くらいまでの少しぬるめのお湯で、15分くらいかけてゆっくりと温まりましょう。42℃以上の高温のお湯を使うと、交感神経が活発化して、かえって体が休まらないのです。
利水作用のある食材を取り入れて
めまいには、内耳のむくみが関わっているとお伝えしました。利水作用のある食材を取り入れて、内耳のむくみ解消をサポートしてみませんか?
きゅうり、はと麦、豆類、白菜などを使った料理を取り入れましょう。飲み物では、ほうじ茶、緑茶、ウーロン茶が効果的です。
コーヒーや紅茶にも利水作用はありますが、カフェインによって交感神経を活発にしてしまうので、自律神経のバランスが乱れているときには少し控えめにした方がよいかもしれません。
漢方薬
気圧変化によるめまいの改善には、漢方薬がサポートになるかもしれません。
東洋医学では、体内の「気」「血」「水」のバランスが乱れることで不調が出ると考えます。内耳のむくみによる気象病のめまいは、「水」が体にとどこおった状態です。使われる漢方薬をご紹介します。
五苓散(ごれいさん)
有名な漢方薬なので、聞いたことのある方も多いでしょう。比較的どのような体質の方にも効果のでやすい漢方薬で、めまいやむくみ、暑気あたりなどに使われます。少しだけ甘みがあり、飲みやすいです。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
体力に自信がなく、ストレスをためやすい性質の方に向いている漢方薬です。「水」がたまり、「気(エネルギー)」がめぐらないことによるめまいや耳鳴り、頭痛、立ちくらみなどに使われます。
漢方薬は、一人ひとりの体質や状態に合わせて選ぶ必要があります。ここでご紹介した2種類以外にも、めまいや耳鳴りに使われる漢方薬はいくつかあるため、「少し試してみたけど合わない」という方は、服用をやめ、耳鼻科などで相談してみてください。
ほかの漢方薬や利尿薬を飲んでいる場合は、飲み合わせによって副作用が出やすくなることがあります。あらかじめ、主治医や薬剤師などに確認しておきましょう。
耳鳴りには無音を避けて
耳鳴りがある方は、小さな音量でラジオやテレビなどを流しておくこともおすすめです。
音は、耳から脳へ電気信号として送られます。耳鳴りは、音が鳴っていないにも関わらず、あるいは音がごく小さいにも関わらず、脳が音をしっかりと聞き取ろうとして電気信号を起こすことで生じるものです。「脳の勘違い」ともいえます。
「耳鳴りがつらいから」と部屋を無音にしていると、音を聞き取ろうとして耳鳴りがひどくなってしまうかもしれません。負担に感じない程度の音量で、音を流しておくのがおすすめです。
まとめ
今回は、梅雨〜台風の時期にかけて感じやすいめまいや耳鳴りといった不調「気象病」の原因と、ご自身でもできる対処法についてお伝えしました。
少しでも快適に過ごせるよう、取り入れられることがあればぜひ試してみてください。
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記事投稿者
森崎アユム
「誰もが自分の体をいたわれる社会」を目指し、薬剤師として勤務する傍ら、わかりやすい情報発信を心がけています。
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記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■