「目と耳は大事にした方がよい」「耳が聞こえにくくなったら困るだろうな」などと漠然と感じている方は多いかもしれません。実際、耳を大切にするために、何か意識していることはあるでしょうか?今回は日々、皆さんが何気なくおこなっている習慣のうち、耳に悪影響があるものについて3つご紹介します。
耳に悪い習慣①耳かき
耳かきは、外耳道炎から聴力低下を起こすリスク要因となります。耳かきを習慣的におこなっている方は多いのですが、じつは、耳かきはする必要がないのです。
外耳は薄い皮膚で覆われた狭い通路になっており、大人の場合で全長は約3cmです。手前の1cmは軟骨、奥の2cmは骨で囲まれた構造をしています。通常、耳垢は手前の部分にしかなく、奥には溜まりません。耳垢は、日常生活で顎を動かすことで、耳の外側へ自然と移動して押し出される「自浄作用」が働き、溜まらないようになっています。そのため、耳かきは不要なのです。
外耳道の皮膚はとても薄く、頻繁に耳かきをすると炎症を起こすことがあります。炎症が悪化して外耳道が腫れる「びまん性外耳炎」は、聴力低下や閉塞感を感じる原因です。
耳かきをやりすぎることで、かえって耳垢を奥に押し込んでしまい、耳がこもったようになるという事例もあります。
どうしても気になる場合であっても、耳の入り口を乾いた布で拭くだけで十分です。耳かきや綿棒を奥まで突っ込まずに、耳の入り口だけをやさしく掃除しましょう。耳垢が気になったときは、無理をせずに耳鼻科で取ってもらうのがベストです。
耳に悪い習慣②鼻すすり
「耳がボワッとする感じが治る」という理由で鼻すすりをしている方は、耳管閉鎖不全などの問題があるかもしれません。
「耳管」とは耳と鼻を繋いでいる細い管のことで、通常は閉じた状態です。唾液を飲んだときなどに一時的に解放されますが、すぐに閉鎖します。
ところが、耳管閉鎖不全などで耳管がなかなか閉鎖しないと、耳の聞こえがこもったようになったり、耳に水が入ったような感覚・耳鳴りを感じたりと、不快な症状を伴います。こうした症状を改善しようと、無意識に鼻すすりをしてしまうのです。
鼻すすりによって耳管を閉じる癖は、真珠腫性中耳炎の原因になることがわかってきました。真珠腫性中耳炎は、慢性中耳炎の一種で、耳の骨を破壊しながら進行する病気です。膿の混じった耳だれが生じたり、聴力低下・耳の痛みといった症状を呈したりします。
鼻すすりによって症状が緩和される一方で、病気の発症や悪化を招いてしまうのです。鼻すすりの習慣がある方は、根本の病気を調べて、治療するようにしましょう。
耳に悪い習慣③イヤホンの長時間・大音量使用
イヤホンの使い方にも、注意が必要です。
WHO(世界保健機関)では、11億人もの世界の若者たち(12~35歳)が、携帯型音楽プレーヤーやスマートフォンなどによる音響性難聴のリスクにさらされているとして、警鐘を鳴らしています。イヤホン難聴は、世界的な問題となっているのです。
イヤホンを使って、大音量で長時間にわたって音を聞いていると、音を伝える「有毛細胞」が壊れてしまいます。この有毛細胞は、一度壊れてしまうと再生しないため、聴力も回復しません。
自動車の騒音程度である85dB(デシベル)以上の音を聞く場合、音の大きさと聞いている時間に比例して、聴力低下のリスクがあるとわかっています。音量は小さめに、使用時間もできる限り短めにすることが大切なのです。
WHOでは、80dBで1週間当たり40時間以上、98dBで1週間当たり75分以上聞き続けると、難聴の危険があると公表しています。iPhoneをお使いの方は、イヤホンから出ている音量についてdB表示してくれる機能があります。「設定」アプリの「コントロールセンター」から、「聴覚」をオンにして追加してください。イヤホンを使用する際、この機能を使って音量を調節してみましょう。
<音量の目安>
音量 | 目安 |
---|---|
100dB | 電車が通るときのガード下 |
90dB | 犬の鳴き声(正面5m)、騒々しい工場の中、カラオケ |
80dB | 地下鉄の車内、電車の車内、ピアノ(正面1m) |
「骨伝導イヤホンなら難聴にならないかどうか」については、まだ結論が出ていない状況です。ですが、電車内などの騒音の中でも、通常のイヤホンよりも比較的聞き取りやすいので、音量を下げることにつながります。音量を上げすぎてしまう方は、骨伝導イヤホンを検討してもよいかもしれません。
まとめ
今回は、何気なくおこなっている習慣のうち、耳の聞こえに悪影響をなりうるものを3つご紹介しました。
聴力の低下は、回復が難しく、日常生活へ大きく影響するものです。耳の聞こえが悪化しないよう、日頃からちょっとした心がけを続けていきましょう。
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記事投稿者
森崎アユム
「誰もが自分の体をいたわれる社会」を目指し、薬剤師として勤務する傍ら、わかりやすい情報発信を心がけています。
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記事監修者
若山 貴久子 先生
1914年から100年以上の実績「若山医院 眼科耳鼻咽喉科」院長。■詳しいプロフィールを見る■