2019.10.31公開

音の雑学:録音した音は本当に自分の声?

マイクを持つ女性

自分の声を録音して聞いたときに「あれ? 自分ってこんな声だっけ?」と思ってしまうことはありませんか? これは他人の声などは空気を伝わって聞こえてくるものですが、自分の声だけはノドで発した音を耳だけでなく頭蓋骨などを共鳴させて聞いているからで、実際の声より低音を強調された音となって聞こえています。 つまり録音した時に感じる「違和感を覚える声」が本来の、周囲の人が聞いているあなたの声なのです。

エジソンと蓄音機この自分の声じゃない変な体験というのは、録音というものが誕生した時から始まっています。 1877年にトーマス・エジソンが音を記録するフォノグラフという録音機を発明しました。この時、エジソンはふと思いついた「メリーさんの羊」を録音しています。世界で初めて自分の歌声を客観的に聞いたのはエジソンなのですが、この時は録音技術の未熟さから実際の声と違っていると気づくほどの音質のモノではありませんでした。

楽譜とピアノ声ではありませんですが、音を客観的に聞く事が出来る機械が発明されたことでショックを受けてしまった人もいます。それは作曲家でピアニストだったブラームスです。 エジソンの発明から12年後の1889年に音楽を録音しようということから、ブラームスに依頼が来て自らが作曲した『ハンガリー舞曲第1番』などのピアノ演奏を録音しています。 周囲はいつも通りの華麗な指さばきに感心したのですが、ブラームス本人はその録音を聞いて自分はもっと上手にピアノを弾いていると思っていたのにとショックを受けてしまい、それまで書いた楽譜を全部捨てて音楽家を辞めようと考えるほど追い詰められてしまいます。 これは生で聞くピアノの音と録音した音の違いだけでなく、演奏している時は感情の高まりとともに激しく音を響かせていたはずが、録音した音を冷静に聞くとそうではなかったという精神的な温度差から来るモノだったみたいです。 その後ブラームスは周囲の説得でなんとか音楽活動を再開することが出来たのですが、録音という技術が誕生し、自分の演奏を客観的に聴くことが出来るようになった事でショックを受けてしまった初めてのミュージシャンなのです。

東京日々新聞ちなみにエジソンによって録音する技術が誕生した後、初めて声を録音した日本人は誰かというと、東京日々新聞(後の毎日新聞)の主筆だった福地源一郎です。 録音機が発明された翌年、1878年にさっそく日本に持ちこまれデモンストレーションが行われています。 この時に「何か声を吹き込んでください」と促され、みなが尻込みをしている中、福地源一郎が思わず「こんな機械が流行ると新聞社が困るぞ」と呟いた言葉が録音されてしまったのです。 これはまだ音質が悪く音楽用と考えられていない時代。さらにラジオも無かった時代で、「声の出る新聞」として考えられていたことからの発言です。 ただし、この時の録音は残されていません。 現存する最古の日本人の声は、1900年にフランスで開催されたパリ万博に日本から参加した「川上音二郎一座」のもので、舞台の実況録音が現在も残されています。 そこには座長の音二郎だけでなく、音二郎の妻で日本初の女優といわれわる川上貞奴の声も録音されています。

風呂に入る男性録音された音が変に聞こえるというのは慣れでしかありませんが、微妙なニュアンスで声を伝える物真似芸人の方はやはり録音して聞き直すということを繰り返して、自分が理想とする声に近づけていきます。 その中、録音せずに出来る簡単な訓練としては、洗面台や風呂場などで声を出すというものがあります。風呂に入りながら歌うとエコーが効いて上手く聞こえますが、その時に反響した音は実際の声質です。 ですから風呂場などで歌ではなく、喋るということを繰り返し聞いて、微調節して理想の発声に近づけることがきでるそうです。 でも風呂場で歌ではなくひとりでブツブツ会話をしているのは、ちょっと不気味かも知れませんので、その点は注意してください。


寄稿者:杉村 喜光(知泉)