体が分泌する物質の中で、耳あかはもっともミステリアスな存在といえます。私たちの耳の中で耳あかができる理由は一体何でしょうか? 耳あかの特性のすべてが医療専門家の間でもまだ完全に解明されているわけではない一方で、耳あかが耳のバリアとしての役割を持っていることは確かです。耳あかについてより理解するため、興味ある事実をまとめてみました。耳掃除で取り除くべきではない理由についても解説いたします。
耳あか:見栄えは悪いけれど耳の健康には必要
耳あかは、医学用語は「耳垢(じこう)」と呼ばれ、外耳に自然に存在する物質です。良い状態の耳あかには油や汗とともに、ほこりや剥がれた皮膚細胞などが含まれています。魅力的とは言いがたい耳あかが、耳の健康にとって実は大切であるという事実はにわかには信じられませんが、耳あかのベタベタで匂いがするという特徴が、実は耳にプラスに働いているのです(耳あかの量が適切である限りですが)。
次を参照してください。
- 耳あかは、ほこりや細菌が耳の奥に入るのを防ぐ自然のバリアとしての機能を果たしています。ベタベタしていることで、虫取り紙が虫を捕まえるように、外耳道に侵入しようとしている顕微鏡でしか見えないくらいの微細な物質を捕えます。この防御バリアがないと、内耳は危険にさらされることになります。
- 耳あかは外耳道を保湿し保護する役割を果たしています。耳あかがないと、外耳にかゆみが出たり、皮膚の皮がむけたりするなどして、炎症や感染のリスクが高まります。
- 防虫効果の役割があります。耳あかの匂いが虫を追い払い、粘り気には、誤って内部に侵入した虫を捕らえる機能があります。
耳あかにはあなたの情報が満載
耳あかに関して共通していることは、ほとんどの人の耳で耳あかが作られるということだけです。耳あかを構成している物質は、民族、環境、年齢、食事に応じて、1人ひとり異なります。
耳あかには主に2種類のタイプがあり、乾燥タイプと湿っているタイプがあります。
- 湿った耳あか(湿性耳あか)は民族的に白人やアフリカ系人種によく見られます。
- 乾燥した耳あかは、アジア人や太平洋諸島に住むミクロネシア系人種、アメリカ先住民で一般的に見られます 。
耳あかの色を見てもあなたのことがわかります。
- 濃い茶色または黒色の耳あか:一般的に古い耳あかでは、耳あかに捕らわれたほこりや細菌のせいで色が濃くなってます。成人の耳あかはより色が濃くて、固くなる傾向がみられます。
- 赤みがかった濃い茶色の耳あか:出血を伴う傷がある可能性があります。
- 薄茶色、オレンジ色、または黄色の耳あか:健康で正常な耳あかです。子供の耳あかは、柔らかく、明るい色になる傾向があります。
- 白色で薄片状の耳あか:このような耳あかがみられる人は、体臭の原因となる化学物質が欠如していることを示しています。
耳あかの量が多すぎる?
通常、私たちの体はどのくらい耳あかをつくるべきなのかを正確に判断しています。健康的な食生活を維持し、衛生状態を良好に保ち、顎を動かしていることで(噛んだり、話したりしている状態を想像してください!)、私たちの耳から余分な耳あか、ほこり、ごみは自然に排出されています。
実は、耳あかそうじの習慣をつけることによって、耳あかをもっと作り出すようにとの信号が身体に送られ、結果的に耳あかが余計に作られることになります。過剰な耳あかによって、聞こえが妨げられたり、耳の感染症やその他の合併症を発症したりするリスクも高まる可能性が出てきます。
ストレスや恐怖といった感情も耳あかが過剰につくられる原因となります。汗を作っているのと同じアポクリン腺が耳あかも作っているというのがその理由です。耳あかが余計に作られる傾向のある方には、次のようなケースが考えられます。
- 外耳道に耳毛が多い方
- 慢性的な耳の感染症に苦しんでいる方
- 外耳道形成異常または外耳道骨腫のある方
- 高齢者や、特定の皮膚疾患または学習障害を抱えている方
耳のお手入れで避けた方が良いこと
耳あかには様々なメリットがありますが、耳あかが外耳道をふさいでしまうと、伝音難聴の原因となります。耳が詰まっている感じがあり、それは耳あかのせいではないかと感じた場合には次のことは避けた方が良いでしょう。
- 自分で耳あかを取り除くために、綿棒やヘアピン、または何か先がとがったもの(耳かきなど)を使って耳掃除をしたりしないでください。この方法だと、耳あかをかえって外耳道の奥深くまで押し込むこととなり、耳あかは自然に排出されなくなります。また、鼓膜に穴をあけてしまう危険性もあります。
- イヤーキャンドル(耳掃除に使用する特殊なろうそく)は試さないでください。有効性についはまだ証明されていないということに加え、火傷、外耳道の耳あか詰まり、鼓膜に穴をあけるなどの深刻な傷害の原因となる可能性があります。
耳のお手入れ方法
耳そのものが自然な耳あか掃除機能を備えているのですが、過剰な耳あかを作り出さず、耳をきれいに保つために私たちができる事をご説明いたします。
- 石鹸を含ませて絞った暖かなタオルなどで耳の周りを拭き取ります。毎日シャワーを浴びたり、お風呂に入る際に、たまに耳にお湯がかかるようなことでも、過剰な耳あかを柔らかくしてほぐすのにはおそらく十分です。
- 耳の状態が健康な場合でも専門家は「耳の入り口を乾いた布で拭くだけで十分」としています。耳の入り口だけをやさしく掃除しましょう。
- 補聴器を装用されている場合には、補聴器をきれいに保つお手入れも行ってください。
- 60歳以上の方では、耳鼻科医師に聞こえや耳の状態を見ていただくことも大切です。聞こえの健康についての助言だけでなく、過剰な耳あかがあった場合には、安全に取り除いていただけます。
- 家で耳のお手入れをしても耳がつまった感じが続く、突然耳のきこえが悪くなる、耳が痛い、耳から出血があるなどの場合は、直ちに医療機関へ相談し専門家の判断を仰いでください。
本記事はHearinglife.comにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的に、日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトはhearinglife.com及びheatlhyhearing.jpに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、heatlhyhearing.comが指定する執筆者または提供者に帰属します。
■英語版記事はこちらから
米国「Healthy Hearing」2020年3月4日の記事「What you need to know about earwax」
(US Healthy Hearing スタッフライター Dabbie Clason寄稿)
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート
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記事監修者
田中 智英巳
デマント・ジャパン株式会社 アドバンスト・オーディオロジー・センター・センター長、ハワイ大学マノア校 Adjunct assistant professor, 静岡県立総合病院 客員研究員、ASHA認定オーディオロジスト、ハワイ州オーディオロジスト。■詳しいプロフィールを見る■