
耳鼻科によくある相談の1つに「耳がこもった感じ」があります。耳がこもった感じは「耳閉感」(じへいかん)とも呼ばれ、背景に難聴などが隠れていることがあります。この記事では耳閉感が生じる原因や耳閉感を主訴に受診された事例についてご紹介します。
耳がこもった感じを耳閉感という
耳がこもった感じのことを「耳閉感」といいます。耳閉感は「感覚」であるため、表現の仕方はさまざまです。耳閉感の表現例を見てみましょう。
耳閉感の表現の例1)
- 耳がつまった感じ
- 耳がふさがった感じ
- 何かに耳を覆われた感じ
- 水の中やトンネルの中にいるような感じ
- 気圧変化を受けた時の感じ
- 水に入った時のような感じ
耳閉感について耳鼻科に相談しようと思ってもうまく言い表せない時には、上記を参考にするのもひとつの方法です。
耳閉感を生じるメカニズムはさまざま
耳閉感が生じるメカニズムはいくつか想定されていますが、詳細についてはわかっていません。
想定されているものの1つに中耳腔(鼓膜の奥の空間)の気圧変化があげられます。中耳腔の気圧変化は、飛行機に乗った時やトンネルに入った際に感じたご経験がある方も多いのではないでしょうか。中耳腔に気圧の変化を生じると、鼓膜の緊張が変化して耳閉感につながると推測されているのです。
低音部の難聴でも耳閉感を生じる可能性があります。突発性難聴では低音部の聞こえと耳閉感が関連していたとする報告がありました。
ただし、気圧の変化や低音部の難聴などが全ての方に当てはまるわけではありません。検査をしても問題が見つからず、耳閉感の原因が推測できないこともあります2)。
耳閉感を起こし得る疾患例
外耳、中耳、内耳で生じて耳閉感につながり得る疾患について表にまとめました3-4)。
名称 | 構造 | 疾患名 |
---|---|---|
外耳 | 耳の入口~鼓膜まで | 耳垢、異物、プールなどの水、外耳道の炎症 |
中耳 | 鼓膜の内側の空間~内耳の間。鼓膜、耳小骨、中耳食腔から成る。 | 耳管(耳の奥と鼻を管)が腫れてうまく開いたり閉じたりできなくなる耳管狭窄症、耳管が開きすぎる耳管開放症、中耳炎など |
内耳 | 聞こえの受容器(感じるところ)である蝸牛と平衡感覚の受容器である前庭器官・三半規管で構成される。 | 低音障害型感音難聴、メニエール病、突発性難聴など |
その他 | 聴神経やそれ以外の部位 | 聴神経腫瘍、小脳橋角部腫瘍、顎関節症、不安障害など |
耳閉感に限らず耳に何か問題が起きた時には、外耳から内耳の間の、どこにどのような問題が起きたのかを把握することが重要です。問題の箇所を探るためにさまざまな検査をします。
外耳が原因で耳閉感を生じる時には、耳の中の異物や水の存在、耳の炎症などがあげられます。
耳閉感の原因が中耳にある時には、耳管(じかん)狭窄症や耳管開放症、中耳炎などの可能性があります。耳管は鼻の奥と耳をつなぐ管のことで、中耳の圧力のバランスをとるのが、主な働きです。耳管は通常閉じていて嚥下(えんげ=食べ物を飲み込むこと)時だけ開きます。しかし、なんらかの原因で耳管が閉じにくくなったり開きにくくなったりした場合には、耳閉感が生じることが多くあるのです。
耳閉感の原因が内耳の場合には、急性低音障害型感音難聴(突然低い音の聞こえが悪くなる病気)やメニエール病(めまいと耳鳴り、難聴が良くなったり悪くなったりするのを繰り返す病気)、突発性難聴が考えられます。
その他、聴神経や脳の疾患、耳に近接していない部位の疾患でも耳閉感を生じることがあります。疾患によっては治療開始が予後に影響するものもあるため、耳閉感が長く続く場合には一度耳鼻科を受診されるとよいでしょう。
【事例紹介】耳がこもった感じが治らず受診したら実は難聴で治療が必要だった
最後に、言語聴覚士かつ医療ライターである筆者が以前勤めていた耳鼻科外来を受診された患者様についてご紹介します。耳閉感が続いて耳鼻科を受診したら、気づかないうちに難聴になっていたことが判明した方がいらっしゃいました(具体的な状況などはプライバシー保護のため変更を加えています)。
症状がある際の参考にしてください。
耳がこもった感じ(耳閉感)が続いていた女性
30代女性が「耳がこもる」とおっしゃり来院されました。耳のこもり感(以降耳閉感)が出現してから自然に治るのを待ち2、3週間様子を見ていたものの、改善しなかったそうです。
耳閉感が出現する可能性がある病気を念頭において、複数の検査をしました。
低音部の難聴が見つかった
検査の結果、低い音を中心に中等度程度の難聴が認められ、急性低音障害型感音難聴と診断されました。
聞こえの改善を図るために内服による通院治療が開始されたところ、幸いなことにもう片方の耳の聞こえと同じくらいまで回復されました。
ご本人が難聴についての診断を受けた際には「まったく聞こえにくい自覚症状はなかった」とおっしゃっていたのが印象的でした。片方の耳の低い音だけ聞こえにくい場合には、もう片方の耳で補って聞くために、難聴だと気づかないことがあります。こちらの女性以外にも、難聴が生じていても自覚症状がなく、耳閉感だけを主訴に受診された複数名の方がいらっしゃいました。
急性低音障害型感音難聴の予後は、治療開始までの期間が早い方が良いとの報告があります。耳のこもり感が長く続く場合には、何か疾患が隠れている可能性についても考えて、早めに受診することがすすめられます。
耳がこもる感じが続く場合は耳鼻科に相談しましょう
耳閉感はさまざまな原因で生じ、中には疾患が原因のこともあります。耳閉感を生じる疾患には、早めに治療した方がよいものもあるのです。そのため、症状が続く場合には耳鼻科に相談されることをおすすめします。
■参考
1,2,4)日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報「耳閉感の診断と治療」
3)日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会「耳の症状」
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記事投稿者
言語聴覚士ライター大井純子
言語聴覚士として病院・訪問でのリハビリに約20年間従事。 「コトバの力で誰かをサポートする」をモットーに、言語聴覚士として働くかたわら、医療記事作成や電子書籍出版サポートなどに取り組んでいる。
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記事監修者
高島 雅之先生
『病気の状態や経過について可能な範囲で分かりやすく説明する』ことをモットーにたかしま耳鼻咽喉科で院長を務めている。■詳しいプロフィールを見る■