人が健康な毎日を過ごすための基本となるのが「食生活」です。健康に良い食事というと、ときにメタボ対策とからみ“粗食”のイメージがあります。特に最近では、炭水化物(糖質)をとると血糖値が上昇する、また肥満の原因になるなどのメディアの話題も多く、糖質制限に注目が集まっています。しかし、糖質制限には、意外な落とし穴があるのです。心身ともにアクティブで、そして現在の聞こえを大切にしていただくため、栄養のとり方についてポイントをご紹介します。
シニア世代では多くの方が「たんぱく質」を豊富に、「炭水化物」と「脂質」をセーブしている
株式会社ネオマーケティングでは、2017年に60歳~79歳の男女1000人を対象に「シニアの食生活と健康意識」をテーマにしたインターネット上のリサーチを実施しました。このリサーチからのデータによると、回答者の半数以上の方が「60歳」「70歳」を迎えることに、体力や病気といった体の面で不安を感じると答えています。
体力の低下や病気を予防するために、食事面で取り組んでいるのは、「野菜をたくさんとるようにする」が52.7%で第1位。次が「塩分をとりすぎないようにする」43.3%、3位が「夜遅い時間に食事をとらない」37.3%でした。
積極的に食べているもの、飲んでいるものへの問いに対しては、「野菜」が1位で、64.9%もの方が「意識してとっている」と回答。2位は「牛乳・乳製品」54.7%、3位は「魚類」46.2%という結果でした。
一方、制限しているものは「砂糖・お菓子・ケーキなどの甘いもの」が最も多く29.9%、次いで「アルコール類」22.9%、「パン・白米・麺類など炭水化物」19.2%となっています。
また、積極的に摂取している栄養素としては、「たんぱく質」があがり、とることを制限している栄養素は「炭水化物(糖質)」が最も多く22.3%、次いで「油・脂質」19.1%となりました。 食物の中に含まれ、身体に必須とされる成分のうち、炭水化物・たんぱく質・脂質を三大栄養素と称することがありますが、この3大栄養素で見てみると、「たんぱく質」への意識は高く、一方で「炭水化物」と「脂質」をそれぞれセーブしていることがわかります。
世代を問わず脳を元気にするためにも「炭水化物」は不可欠!
炭水化物(糖質)や油をセーブして、筋肉や骨、血液の元となるたんぱく質を多くとるのは、一見良いように思えます。しかし実際は、限定した栄養素のみを制限するのは、体にとって決して良いこととはいえません。
多くの回答者が摂取を控えている栄養素1位の「炭水化物(糖質)」は、筋肉や臓器、脳を動かすエネルギー源で、シニアの身体づくりにおいても必要不可欠な栄養素です。「炭水化物(糖質)」を定量に保つことは、脳を働かせ活性化させることにもなり、認知症のリスク低下にもつながることが指摘されています。
また、「油・脂質」も血液やホルモンの材料となる重要な栄養素です。つまり、心身をアクティブに保つためには、いろいろな栄養素をバランス良く摂取することが最も効果的といえるのではないでしょうか。
大切なのは、それらの栄養素をいずれも適量を摂取すること。食べ過ぎによる肥満の問題や塩分のとりすぎは、糖尿病や高血圧、脳卒中、心臓病といった生活習慣病のリスクを高めるといわれています。
栄養と聴覚との関係はどこにある?
ところで生活習慣病への関心はお持ちの一方で、日々の栄養と聞こえの関係については、意識をしたことはないというのが本当のところではないでしょうか?
幸いにも、栄養がどのように毎日の耳の働きに影響するかを考え研究を重ねている専門家もいます。現在は米国ミシシッピ―大学メディカルの助教授(当該研究が行われた当時は米国フロリダ大学の研究助教授) であるクリストファー・スパンコビッチ氏(Christopher Spankovich、Au.D.、Ph.D)は、栄養素が聴覚系においてどのように作用するかを解明するために食事のパターンについての研究を行いました。
「食事について考えることは、ご自身の聞こえの健康に直接的、そして間接的に影響を与えます。」とスパンコビッチ氏は述べています。 「健康的な食事は、私たちの身体に良い影響がありますが、これは体全体にとって良いということです。私たちの耳も私たちの体の一部です。これは実際に覚えておくべきことなのです。身体が健康になれば聞こえもより健康になるということです。」
耳は体の一部でしょうか?言うまでもないかもしれません。しかしながらスパンコビッチ氏がここで指摘しているのは、私たちの耳は、他の身体の器官と心臓血管系、骨格系、筋肉系および神経系を共有していることを覚えておく必要があるということです。これを意識していただくと、栄養と聞こえの関係の関連がよりはっきりするかもしれません。
「私たちの研究の次のステップは、それぞれの栄養素がもつ役割をさらに詳しく理解し、聴力の低下へ抵抗する力を高める食品の組み合わせを見つけ出していくことにあります」とスパンコビッチ氏は述べています。 研究では、難聴や耳鳴りのような状態を防ぐための決定的な食事メニューはまだありませんが、スパンコビッチ氏のような研究者は、日常の野菜や果物に含まれる栄養素が会話や音を集め増幅させ脳へと届ける器官を丈夫にすることへとつながると決定づけています。
トマト、納豆、青魚、ほうれん草…聴覚を守る食材もしっかりと
あらためて適切な栄養を取っていただくことは、筋肉や脳だけでなく、現在の聞こえを守る効果もあるといえます。最後に耳にとって大切な栄養素のいくつかをご紹介しましょう。
- 葉酸:水溶性でビタミンB群の仲間である葉酸は、聴覚系に重要な細胞代謝、神経系および血管機能に大切な役割を果たしています。 米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会耳鼻咽喉科の専門誌「Otolaryngology - Head and Neck Surgery」で発表された研究では、葉酸の不足と高音難聴への関連の可能性が示唆されています。
- n-3系脂肪酸(オメガ3):「n-3系脂肪酸(オメガ3)」は、偏った脂質を改善したり、血圧を下げたり、血液の流れを改善するなどに役立つとされます。耳の奥にあって聞こえをつかさどる「蝸牛(かぎゅう)」という部位が衰えるリスクを下げる効果も期待できます。
- マグネシウム:マグネシウムは骨を健康に保つのに役立ちます。研究によると、マグネシウムが不足すると騒音性難聴の影響を受けやすくなるとされています。
- 亜鉛:前触れなく聞こえが低下する突発性難聴の回復を手助けすると言われています。また、免疫システムを強化するためにも重要です。
- ビタミンA:人の体が持つ免疫システムをサポートしている栄養素です。健康な免疫システムは、耳感染を引き起こすような細菌の蔓延を防ぐのに役立ちます。
- ビタミンC:フリーラジカルは身体の代謝活動において有益な働きをするとされますが、過剰に発生すると細胞、タンパク質やDNAに損傷を与えます。ビタミンCなどの抗酸化物質は、内耳の繊細な細胞構造を保護してフリーラジカルの攻撃を防ぎます。
* フリーラジカルとは?:体内で作られる活性酸素の中でも不安定な分子構造を持つもので、体内でのたんぱく質変性やDNAの損傷などを引き起こすとされます。
上記の栄養素が豊富な食材は、たとえばトマト。マグネシウム、葉酸、亜鉛などが含まれており、耳を健康に保つためのスター選手といえます。納豆、緑豆、ヒヨコ豆なども葉酸や亜鉛を豊富に含むことで知られています。
濃い緑の葉物野菜にはビタミンAとCが確実に含まれています、ホウレン草には聴覚を保護するビタミンと抗酸化物質に加えて、亜鉛も含まれています。 ブロッコリー、ジャガイモ、枝豆、わかめ、あおさ、ひじきなどはマグネシウムを豊富に含みます。
上記の栄養素も、どれか1つを偏って多く取るのではなく、大切なことはバランスよくこれらの栄養素を取り入れていただくことです。既往症のある方は栄養摂取についてかかりつけの医師をはじめとする専門家の指示に従ってください。
また毎日の食事の際に、聞こえについて少しでも関心を向けていただけたらと思います。もし聞こえがいつもと何か違うと感じたら、どうぞ迷わず耳鼻科医を受診ください。また難聴があると分かった際には補聴器など聞こえのサポートについて相談いただける補聴器専門店についてこちらからご相談ください。
■参考文献
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記事投稿者
ヘルシーヒアリング編集局
1. ポータルサイト「ヘルシーヒアリング(healthyhearing.jp)」の運営 2.「安心聞こえのネットワーク」連携サポート